短編。 | ナノ





ミス蘭は百合で軟派された。
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『美少女でも美少年でもかまわない』







「ねぇ霧野蘭丸。たまには外の空気を吸いに行こうよ」


「お前と歩くと目立つから嫌だ」


「君と歩くのだって、やたらと人目を引くよ?」


だけど、それがいいんじゃないか。


周囲の注目を独り占めだなんて、最高に優越感に浸れる。


麗しい者が歩いていたら、興味を持ってしまうのが人間の性ってやつだよ。



淀み無く言葉を紡ぎ続けるミストレに、

俺は半ば呆れ顔で相づちを打つ。


始まったよミストレ様のプチ演説会。




「美しさは罪じゃない。醜いことこそが罪だろう?残酷な意見かもしれないけれど、これは真理だと思うんだ」


「…そーだね」


「美しさは財産だよ。しかも、いつか衰え枯渇してしまう財産だ。ならば、今、存分に有効活用しなければ勿体無いと思わないかい?」


「…そーだね」


「せっかくオレと君は美を授かって生まれた稀少な存在なんだ。今こそ手を組んで人々にささやかな幸せを振り撒いてあげようじゃないか」


「デート行きたいって言えば?ミストレさん」




ピタリと、ミストレの饒舌が途絶える。

ポク、ポク、ポクと三拍の沈黙。



途端、顔を紅潮させて、一瞬仰け反った後、少々乱れた前髪を直しながら体制を取り直し、虚勢を張るように腕を組んで、ミストレは俺に、キッと、挑むような眼差しを向ける。



暫く口を金魚みたいにパクパクさせて、言葉になってない謎の声を発した後に、


やっと、


「デ、デート…!!行き、たい」



いつもの流暢な口調はどこへやら。


何ともぎこちないデートのお誘いを、俺は受けたのだった。






(かっわいい…)



断れるわけがないでしょう。


………………………






「霧野蘭丸、君の時代の服は色鮮やかでとても可愛いね」


「そうなのか。まあ、お前、いつも性格の割には大人しめな服しか着てなかったなぁ」


そう言いながら、くすくす笑う彼は、正直、男に見えない。



微かに芽生える敗北感。



艶やかな桃色の頭髪を耳辺りで2つに結って、

翡翠色の瞳を左右等しく細めて笑う彼に、


抱く感想は、単刀直入に言えば可愛い″である。


庶民にしては、饒舌尽くしがたい可憐な容姿だ。


本当に可愛い。


桃色ツインテは狡いと思う。


でも、深緑の高級感溢れるみつあみも、素晴らしいもん。

別に羨ましくなんかないし。


気を取り直し、ショーウィンドウに移る自分の姿を見詰める。


ほら。


オレも、性別という概念を超越した美貌を備えている。


この気品は、庶民の彼には醸し出せないだろう。


うん。やっぱりオレが一番可愛い。



満足。


いつもの軍服のような格好じゃ、目立つどころの話じゃないので、

背格好はそれほど変わらない霧野蘭丸に、彼の私服を適当に見繕ってもらったのだ。


個人的には、あの制服のままでも構わなかったのだが。


彼の服を着たかった…じゃなくて、


人の厚意には甘えるべきだと、両親に教わったから、遠慮無く服を借りたのである。



決して、彼の匂いがするかなみたいな邪な感情ゆえではない。




まあ、でも。


流石と言うべきか、


やはりと言うべきか、



オレはどんな庶民の服を着ても、完璧に着こなせる事が分かった。



「ねぇねぇ、似合う?」


「似合う似合う」


「…!!」


にっこり笑顔で応える彼に、心臓が跳び跳ねる。


まぶしい。なにそのきらきらオーラ。

霧野蘭丸、流石だな。

このオレをときめかすとは。


オレと同じ、公式美少年なだけある。



彼に誉められるのは、大変嬉しい。

それはもう、全身が歓喜に震える程に。


思わず、彼に飛び付く。


華奢な手に指を絡め、繋ぐことを強要すると、


初めは人目を憚り渋るが、それでも暫くたてば、


仕方ないなぁ。


と、苦笑して、霧野蘭丸は手を握り返してくれる。



彼は押しに弱いのだ。



まあ、そんなところも愛しいと思ってしまうのは、

惚れてしまったからなんだろう。


にやけてしまう顔を、必死に抑制して、


彼の手を引き、歩き出した。


ていうか手がオレより小さいだなんて、可愛すぎて動悸が凄まじいことになっているんだけど。


どうしよう。

じっくり手を握るなんて初めてだから、なんか、




このオレが手汗だなんて、そんな、駄目だろ。頑張れミストレーネ・カルス。




美しいオレが手汗をかいてしまいそうという危機が迫る中、


霧野蘭丸が、唐突に口を開いた。




「…なあミストレ、視線が痛くないか?」


「そ、そうかな?オレは気にならないけど。」


そんなことより、手汗が。

もう、君が予想以上に愛くるしいからいけないんだよ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・




でも、

言われてみると、

なんだか周囲に心なしか、どよめきが生じているような。






(美少女2人が手繋いでる…!!)


(桃色髪の方やばくね?)


(いや。俺的には緑ちゃんがストライク)


(ゆりゆり美少女…)


(お前ナンパしてこいよ!!)


(お前が行けよ!!)






よく聞き取れないが、どうやらオレ達がどよめきの原因らしい。


ふふふん。




「ね?霧野蘭丸。見てごらんよ、回りの民衆を。みんなオレ達の容姿に酔いしれてる。」


「…お前と歩くと、やっぱり、こうなったか。」


「いいねぇ、なんだかすごく気分がいいよ。」


「そうか?」


「ほらほら。君も笑ってよ。笑った方が何倍も可愛いんだから。」


「…っ!!」


「あれ。どうしたの顔真っ赤だけど?」


「顔、接近させて、そういうこというな…」


「耳まで真っ赤ー」



もう、この照れ屋さんめ。
(ちなみに俺は照れ屋ではない。でもなんかこう、マトモな方法で行こうとするとなんか照れちゃう。デートのお誘いとか。)



ああもう本当に可愛い。


食べちゃいたいくらい可愛い。



まあ、もう食べたことあるけどね!!







(めっちゃいちゃついてる…!!)


(お互いの髪触りっこしてる…!!)


(緑色の子が桃色の子にほっぺちゅうした…!!)


(桃色の子赤面して固まってる…!!)


(美少女同士で何やってんの。方っぽ俺にくれよマジで)


(ナンパしてこいよ!!)


(いや、あれをぶち壊す勇気がないから!!)





なんだか周りが騒々しくなってきたなぁ。

ちやほやされるのは好きだけど、煩いのは苦手だ。



まあ、オレの美しさに騒ぎたくなる気持ちも充分分かるけど。



でもさ、人混みやら喧騒って疲れるよね。


鍛えぬかれたオレも、この時代の異様な人口密度の高さには、弱い。







「ねぇ霧野蘭丸、喉乾いた」


「ん。じゃあ自販行ってくるよ。ちょっと待ってて」

「自販?なにそれ」


「お前の時代に自販ないの?」



彼の説明によると、硬貨を入れて、購入希望の飲物の下のボタンを押すと、ガシャンと足元の取り出し口へその飲物が落ちてくるというなんだか便利な物らしい。


なんだか面白そうだ。



「オレも行く」


「そうか。じゃ、行こう、たしかこの辺に…」



そうして彼の手に引かれ、自販とやらを目指そうとしたその時、



背後から肩を叩かれた。



怪訝に思い、背後を一瞥すると、

頭の悪そうな男が2人。


外見から、小物臭が滲み出てる。


耳とか鼻とか唇とか、もともと綺麗とは言えない造形なのに、さらにそこに穴開けて輪を通している。


センスないな。


ピアスは美しいと思うけど、大量にぶら下げるのは、気味が悪いだけだと思うよ。


興味が沸かなかったのでシカトすると、



いつの間にか、前方まで回り込まれた。


霧野蘭丸の足が止まり、必然的にオレの足も止まる。






「君たち可愛いねぇ」



…?


何当たり前の事、得意顔でほざいてんだろうこの人。


「俺等と遊ばない?」



遊ぶ…?



遊ぶって、手合わせすることかなぁ。


こんな人混みの中?


でも多分オレこの人、殺しちゃいそうだなぁ。


見るからに弱そう。






ねぇねぇ、霧野蘭丸。君の時代には出会い頭に突然決闘するのかい?


隣で固まってる彼に小声で問い掛ける。


違うって。ナンパだよナンパ。男が女に声かけて、デート(?)に誘うんだよ。


…なにそれ。オレ男だよ。君はともかく。


俺は男だよ。お前はともかく。とにかく、撃退しないとヤバイぞ。コイツら不良だし。


不良?


危ない奴等ってこと。どっか連れ込まれたりするかもしれないだろ。


ふむふむ。


ささっと俺達男です。って言って走るぞ。


了解。




「おいおい。2人で内緒話かよぉ。俺等も入れてくんない?」


ピアス男が肩に手を回してきた。


うわー…、肌きたな。


ちゃんと手入れしてんのかなぁこの人。



「申し上げにくいんだけど、オレ、男なんだよね。あと隣の人も」


「は?」


「だから、男。」



あはは。

間抜け面して固まってる。

ぶさいくだなぁ。


まあ、こんな美貌を持つオレだもの。


君の気持ちもわかるよ。



じゃ、そういうことで。



と、退散しようとした時に、ギャハハと下品な笑い声が響いた。



「つくならもっとましな嘘つきな。お嬢さん!!」


「そんな高い声して男とか言われても、ねぇ?」



…なんなのコイツら。

すんごいムカつく。


オレを誰だと思ってるわけ。




どのような分際で、このミストレーネ・カルスを馬鹿にしてるの。




「いや。男なんだから仕方がないじゃないか」


「へぇ?そんな可愛い面して男?」



顔近付けてこないで欲しいな。


唾が飛ぶ。

何だか物凄く鬱陶しいんだけど。


殴っていいかな。



「本当に男なんですよ。」


「えー?こんな可愛い桃色髪なのにぃ?」



あ、ちょっと霧野蘭丸の頭汚い手で触らないでよ。


桃色がくすむ。



「しつこいよ君達。何度繰り返せば理解するの?オレ達が男だって。馬鹿なの?」


「あ。こらミストレ…」


「…へぇ。こっちの元気な緑ちゃんはミストレちゃんって言うの?」



ミストレって呼ぶな。


君に許可した覚えはない。




「完全に女の子の名前じゃん!!」


ミスがついているからって女の名前と決め付けるその単細胞な脳味噌を思いっきり揺さぶってあげようか?


「こっちの桃色ちゃんはなんて名前なのー?」


ガバッと彼の肩を抱く男に沸き上がる殺意。


オレ我慢て苦手なんだよね。

やってもいいかな。




「…あ、ちょっと」


「まだ男とか言うの?じゃあ、証明して欲しーなー」








あ。


今あいつ、霧野蘭丸の胸に手を置いたね。



死刑でいいよね。









…………………………






「ミストレお前、本当に怪我ない?」


「無傷に決まってるじゃないか。あんな雑魚供に手を煩わされる程、オレはか弱くないよ」



涼しい顔で、乱れた髪を整えるミストレに安堵する。


だけど、


足許に倒れた不良供、どうしよう。


完全にミストレにやられて気絶してる。

なんだか若干、やり過ぎな気もする。




「霧野蘭丸、コイツらどうする?」


とどめ刺す?


首に手をかけたミストレを、慌てて止めた。



ミストレは渋々不良から離れる。


溜め息をつき、ミストレは俺に向き直った。


「もう、外出は懲り懲りだ。ねぇ霧野蘭丸。帰ろう」


「そうだな。なんか、ごめん」


「なんで君が謝るんだい?」


「いや。ここに連れてきたの俺だし」


「君とここで過ごした時間は、至福のひとときだったよ。ありがとう。オレが懲り懲りなのは、君を危ない目に合わせることだ」


「……。そうか…」


「オレ達2人は思った以上に目立つみたいだね。これからはもっと気を付けよう。」



紫黒色の瞳を細め、ミストレは微笑した。




…可愛いなぁ。



こんな可愛い顔して、サラッと格好いいこと言っちゃうんだもんなぁ。





(惚れない方が、)


(難しいって、)




………………………


なんかこんな出来で申し訳無いです…、


個人的にミス蘭は、


あくまでもオレの方が綺麗だけれど、君もいい線いってるよ。

そりゃどーも。


みたいなイメージです。



百合百合仲良しなミス蘭がかけて楽しかったです。


テーマのご提供ありがとうございました!!





ミス蘭て端から見たら

百合ですよね。


素晴らしいと思います。



















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