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06






昨日は二人して泣き疲れてそのまま同じベットで眠ってしまったようだ
幽霊の時は睡魔なんてものはなかったのに、実体化した途端にこれだ
もう自分で自分がわからない

僕が目を覚ますと、目の前にヴァイスの顔があった
真っ白な睫も、白い肌も全て綺麗なのに
何故マグルはこの綺麗な生き物を受け入れられないのだろうか
にしても、益々自分の今の状態がわからなくなった
幽霊が実体化するなんて事例は今までに聞いたこともなければ見たこともない
これではまるで僕はヴァイスを憑代にする分霊箱のようだ
本当に自分で自分が理解できない

嗚呼、そんな事よりも今日もおまじないをしないと



「今日はきっと、ヴァイスにとっていい一日になりますように」



ふるりと白い睫が震える
ゆっくりと赤い瞳が顔をだし、僕の事を映す



「とむ…?おはよ」
「おはようヴァイス」
「あ…今日も、見える…」
「ふふっ…これでずっと君の傍にいれるよ」



僕がヴァイスをぎゅっと抱き締めると、ヴァイスも僕を抱き締め返してくれた
嗚呼、なんて幸せなんだろう



「あ、トム…ご飯、食べよう?僕、とってくるから」
「嗚呼、待って…広間へ行くなら僕も行くよ」
「え…?でも、」
「周りには見えないようにして行くから、大丈夫」
「…そっか」



ヴァイスは少しぎこちないが嬉しそうに笑った
嗚呼、君のそんな顔が毎日見れるなんて…!
魔力が戻ってよかった!

僕は実体化をやめてヴァイスの傍を漂う



「…トム、いつもそうやってそばにいたの?」
『うん、そうだよ』
「…そっか…なんだか、不思議だね」
『ふふっ…さぁ、早く行かないとあのクソガキ共に目をつけられるよ』
「…うん、わかった」



ヴァイスはいつもよりぎこちない動きで扉を開けて固まった
きっといつもは見えてなかった僕が見えているから僕が通るまで扉を開けているつもりなんだろう



『大丈夫、僕すり抜けられるからね』
「あ、そっか」



結局ヴァイスは僕が通ってから扉を閉めた
…本当にわかってるのかな



『いいかい?僕は回りには見えていないからね…今君は一人で話しているように周りから見えているんだよ』
「そっか」
『うん、だから僕が居るものとして喋っちゃダメだよ?いいね?』
「わかった」
『いい子だね』



僕がヴァイスの頭を撫でると、ヴァイスが嬉しそうに笑った
嗚呼、幽霊の状態でも触れるなんて!なんて幸せなんだろう!二回目だね!
ヴァイスがゆっくりと広間へと続く扉を開ける
夜中まで大騒ぎしたせいか、起きている子供は一人もいなかった
僕が魔法を使ってパン以外の食べ物を盗んでいる間に、職員の女の一人がいつものように適当にヴァイスの前にパンを置く
ヴァイスは皿からパンを二つ取り、大事そうに持って広間を出ようとしたその時だった



「ヴァイス待ちなさい」
「…?」



職員の一人…いつもヴァイスを叱り付けて頬を叩く女が呼び止めた
嗚呼、またヴァイスにあらぬ罪を着せるつもりなのだろうか



「貴方、部屋にパンを持っていって何をする気なの」
『食べるに決まってるだろう…馬鹿なのかこの女』
「まさか部屋で動物を飼っているんじゃないでしょうね!」
「ちが、」
「嗚呼、貴方って子は!」



女は今にもヴァイスを叩こうと腕を振り上げた
僕はヴァイスを抱き締めて女を睨む



『インペディメンタ』



女は腕を振り上げた状態のまま固まった
他の職員は不思議そうに女を眺めている
来る衝撃に備えて目をぎゅっと閉じていたヴァイスは衝撃がこない事に不思議に思ったのかゆっくりと目を開けて固まった女を見て不思議そうにしている



『さぁ、早く部屋に戻ろう』
「…?……???」
『ふふっ…魔法だよ』



そう言って僕はヴァイスの掌を掴んで部屋へと急かした
ヴァイスは部屋に入るなり瞳を輝かせて、すごいすごいと僕を囃し立てた



「あれは何の魔法なの?」
『あれはね、妨害せよという意味なんだ』
「妨害…」
『そう、相手の動きを遅くしたり、停止させることができる…本当は吹き飛ばしてやりたかったくらいなんだけど、そんな事をしたらまたヴァイスに冤罪がかかりかねないからね』
「トム、すごい…」
『ふふ、ヴァイスの為ならなんだってするよ…それに、あの女はずっと気に食わなかったんだ』
「どうして?」
『マグル風情が僕の愛しいヴァイスに手を出すなんて耐えられないからね』
「…マグル?」
『あぁ、マグルというのは魔法の使えない人間の事さ』
「……じゃあ、トムは僕の事嫌いなの?」
『え?』
「だって、僕も魔法、使えない」



嗚呼、ヴァイスにいらぬ不安を与えてしまった
僕は急いで実体化してヴァイスを抱き締めた



「違うよ…ヴァイスの事は愛してるよ?でも君以外のマグルは嫌いなんだ」
「そっか…」
「本当だよ?僕にとって君は唯一無二の存在なんだ」



そう言って僕はヴァイスを抱きしめた

嗚呼、これからずっと僕は彼と一緒にいれるんだ
そう思うと嬉しくて仕方ない
これからは毎日こうやって話す事ができる
一緒に眠って、一緒に起きることができる
こうやって抱き締めて、手を繋いで、彼に触れる事ができる
もう僕は一人じゃないんだ
彼を傷つける全てを排除できるんだ



「君は特別なんだよ」
「特別?」
「そう、君は特別だよ。だって、幽霊の魔法使いに愛される人間なんて中々いないだろう?」
「…ふっ、そうだね」



ヴァイスがくすくすと笑う
これからは僕が彼の人生を変えてあげるんだ
もうあんな涙を流させるものか



「あ、ご飯食べないと…」
「そうだね。ああ、そうだ…これも食べていいよヴァイス」



僕はさっき広間のテーブルから盗ってきた食料をヴァイスに差し出す
ちなみにメニューはスクランブルエッグとベーコンだ
ヴァイスにはパンを食べさせておいて他は良い物を食べているなんて本当に腹立たしいね



「これ、いいの?」
「もちろん!ヴァイスに食べてもらう為に盗ってきたんだからね」
「…ありがとう、トム」
「ふふっ、…あ、皿は後で僕が下に持っていくから心配しないでね」



ヴァイスは嬉しそうにスクランブルエッグを食べている
嗚呼、本当に愛しくてたまらない
いっぱい食べて大きくなってね、なんて
僕らしくない事を考えてしまうのだから
本当に絆されている



「トムも食べてね」
「うん、おかわりほしかったら言ってね?また盗って来るから」










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