04






ヴァイスが推定10歳になった
でもホグワーツから書類はこない
魔法使いも尋ねてこない
やっぱりヴァイスには魔力がないんだろうか

ヴァイスが魔法使いだったら
僕がもしヴァイスに認識されたなら
ホグワーツの中をいっぱい案内して回るんだ
必要の部屋も、厨房も、秘密の部屋にだって連れて行ってあげて
呪文も勉強も箒の乗り方だって、全部教えてあげるんだ

でもね、正直なところヴァイスが魔法使いじゃなくたっていいんだ
マグルの事は嫌いだけれど、ヴァイスの事は好きだからね
ただ、問題が一つ
それは虐めがだんだんエスカレートしていることだ
ちゃんと食べさせてもらっていないヴァイスに比べて、あの餓鬼共はどんどん成長している
体格差は開いていく一方だし、力だって負けている
なのにこのままヴァイスが魔力に目覚める事もなく孤児院で生涯を終えるような事態に陥ってしまえばいつかきっとヴァイスは殺されてしまう

何度も手を伸ばした
何度もその手を掴もうとした
でもすり抜けて掴めもしない

僕はもう耐えられなかった



『クソ、ッ…!!』



どうして僕には魔力がない
どうして僕には体がないんだ
魔力があれば、実体を保てれば僕はあの子を守ってやれるのに
怪我の治療だってしてやれるのに
これが、報いだとでも言うだろうか

ヴァイスは震えながら薄い毛布に包まって眠っている
その体は青い痣や切り傷だらけで、初めてであった時よりもその数は増えている
まともな治療もしてもらえないこの施設じゃ治りも遅いというのに

震えるヴァイスを暖めるように抱き締める
ヴァイスの頬の傷にいつものようにキスをして
早く治りますようにって祈るんだ



『おやすみ、…明日こそ、君にとって幸せな日々が訪れますように』















翌日、この日は12月31日で外は雪が降り積もっていてる
大晦日という事もあり子供も職員もいつもより騒いでいた
そんな賑やかな雰囲気とは裏腹に、ヴァイスは最近哲学に目覚めて、この年の子供に難しい本を読んでいた
嗚呼、なんて賢いんだろう
流石は僕の愛しい子

毎日のように溢れていくこの感情に名前をつけるとしたら愛情だと僕は思うのだ
だって、彼の傍を片時も離れたくない
彼が傷つく事が自分の事のように辛くて胸が痛む
彼の幸せを何より願っている
誰が何と言おうが、これが僕なりの愛情なのだ

僕が騒ぐ子供を眺めていると、ヴァイスは立ち上がって階段を上っていった
きっと本が読み終わったのだろう
また本をとって戻ってくるはずだ
たまには此処で待ってみようか
僕がその場で宙に浮きながらヴァイスを待っていると、何人かの子供が駆け足で階段を上っていくのが見えた
僕は急いでその後を追う
嗚呼、あのクソガキ共…何をするつもりだ



「おい!悪魔!!」
「……アドルフ」
「悪魔のくせに俺の名前を呼ぶんじゃねーよ!」
「…」
「チッ!最近なんなんだよ!生意気なんだよ!」
「そうだ!お前最近俯いたりしなくなったし、俺達が何かしてもかわすし!」
「…」
「何とか言えよ!」
「むかつく…おい!ウィル!ヴァイスの事捕まえろ!」



ヴァイスが壁際に押さえつけられる
何とかウィルの事を突き飛ばして、窓辺に逃げた時だった
虐めの主犯格のアドルフがヴァイスと取っ組み合いになって、ヴァイスの上半身が少し窓から外にでる

嗚呼、危ない…!!



『ヴァイス!!!』
「悪魔なんだから落ちても平気だろ?」
「っ…!!」



アドルフがヴァイスを突き飛ばした
僕は必死にヴァイスに手を伸ばして、でも、掴めやしなくて



『嗚呼、嗚呼…!!ヴァイス!!ヴァイス!!!しっかりして!!』
「…、っ」



落ちた時に木の枝で掠ったのか、そこら中が切り傷だらけだ
雪がクッションになったお陰でそこまで大きな怪我はしていない
でもこんな真冬に薄着で雪に埋もれれば死んでしまう



『頼む、しなないで…!!だれか、だれかこのこを!!』



僕が叫んだその時だった
ヴァイスがぱちりと目を開けたその瞬間、並ならぬほどの大きく歪な魔力を感じた
生きていたときよりも大きな、それでいて不安定なその魔力を、僕は無意識のうちにヴァイスに注ぎ込んでいた
するとみるみる内にヴァイスの今までの傷が全て治った
僕は驚きながらも魔力がなくならないうちにヴァイスに保温魔法をかける



『今のは…?…嗚呼、それよりヴァイス、大丈夫かい?今ならきっと魔法で運べるはず、』



触れられない、そうわかっていながら僕はヴァイスの頬に手を伸ばした



『…え、?』



掌がヴァイスの暖かい頬に触れた
嗚呼、嗚呼、!僕は今触れている!!
ヴァイスには僕は見えないはずなのに、ヴァイスの赤い目は僕を見つめていた
これは夢じゃないのか…!



「…はじめ、まして?」
『うん、うん…、はじめましてヴァイス』
「いつも、ぼくのそばに…いた?」
『僕が、わかってたのかい?』
「ううん…でも、いつからかな…優しい声が、きこえたんだ」
『ヴァイス…、』
「いつも、そばにいてくれて…ありがと」
『違う、僕は…っ僕は君に何もしてあげられなかった!』
「ありがとう…いつも、いつも、眠ってる、僕のあたま、なでて、くれてたよね?」
『…、っ』
「ありがとう…」
『ヴァイス…、僕、っ』
「これからも、ぼくの、傍に居てくれる?」
『嗚呼、嗚呼…!君が望むならいつまでも…!』
「…泣かないで、」



嗚呼、嗚呼、!!
こんな奇跡が訪れるなんて!

年が変わって騒ぐ子供の声を微かに聞きながら
僕はヴァイスに思いっきり抱きついて泣いた
ヴァイス優しく微笑んで僕を抱き締め返してくれた
いつも触れたかったヴァイスに触れられる
いつも治してあげたかった怪我を治してあげられる
ヴァイスを助けてあげられる
一目でも彼の瞳に移ることが出来た

嗚呼、なんて幸せなんだろうか














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