01
映像が止まって、真っ暗な世界に皹が入る 皹によって出来た隙間から眩しい程の光が溢れた 僕は咄嗟に目を瞑った
全ての感覚が途絶えたはずなのに、何かが聞こえた よく耳を澄ますと、子供の声だという事がわかった そっと目を開けると、そこは公園だった
どうして僕は公園にいる こんな公園見覚えがない 知らない
どうして、だっては僕は、
『ここは…何処?』
僕は自身の放った緑の閃光が跳ね返って死んだはずだ なのにどうして今ここにいる
咄嗟に自分の体を見ると、少し透けている気がした それに
『スリザリンのローブ…まさか、』
手で自分の顔を触って確信した 僕は今、学生時代の体に戻っている どういう事だ どうしてこんな事になってる 僕は幽霊にでもなってしまったのか
姿現しで漏れ鍋に行けやしないかと魔法を使うことを試みても成功しない それどころか、生きていた時にはあった溢れんばかりの魔力すら感じない
此処で遊んでいる子供は全てマグルだろう 魔力を少しも感じない上に、やってることが幼稚だ どうして僕はこの場所に居るのだろう ゆっくりと地に足をつけて公園を歩く 子供の前を通りすぎても子供は僕を気にも留めなかった それどころか僕の体をすり抜けてしまった
嗚呼、やっぱり僕は幽霊になってしまったらしい 自分の体をすり抜けられていく感覚が気に入らなくて、僕は立つ事をやめて浮くことにした ふむ、浮くのは案外面白いかもしれない 僕が地上から公園を眺めていると、親子が僕の前で揉め始めた
「さぁ、帰るわよジム」 「いや!ままなんてきらい!まだじょしゅとあそぶのー!」 「ジム!」
騒がしい子供 それを見守る親 自分にはなかった物が生まれた時から全て揃っているくせに さも当たり前だと言わんばかりに振る舞う子供 突き放されても当然のように子供を構う親 僕には、なかったもの
嗚呼、ここに居たら思考が底なし沼に嵌ってしまう …何処かへ移動してしまおうか でも移動したって僕に居場所はない 死んで尚僕には居場所がないのか なんて惨めな
諦めて誰も居ないベンチに腰掛けた 僕が悩んでいる間にも時は進み、青く澄み渡っていた空は赤く染まっている 公園で遊んでいた子供とその親がだんだんと帰って行き、公園は昼と比べれば静かになっていた 立ち上がり、意味もなくふらりと公園を漂っていると、一人の子供を見つけた ただベンチに座り、ぼーっとまだ遊んでいる子供を眺めている
でもその子供は普通じゃなかった
『…先天性白皮症、か』
まだ僕が幼かった頃 僕の持つ力が魔法であることを知らなかった時だ よく図書館に籠もって魔力や赤い瞳について調べていた その時に知ったのが先天性白皮症と言われる病気だった 世間一般にはアルビノと呼ばれ、特徴としては白い肌と白い髪、そして僕のように赤い瞳を持つ 色素の欠落によって起きる病気
僕はその子供の隣に座り、子供を眺めた 僕が子供を観察している間に日は暮れ、夜が訪れたようだ それでもこの子供を迎えに来る親はいない
子供は何かを思い立ったように立ち上がり、ゆっくりと歩き出した そして子供が門をくぐっていったその場所は
『やっぱり』
孤児院 捨てられた子供の集められる場所 きっとこの子供は捨てられたんだろう 人間は人とは違う何かを求めるくせに、いざ人とは違う何かを見つけるとそれを罵る生き物だ きっとこの子供は罵られる側の生き物だったのだろう
「うわ、悪魔が帰ってきたー!」 「悪魔だ!悪魔だ!」 「何で帰ってきたんだよ!」 「…」
がつ、と鈍い音がする 子供の足元に石が転がる 額には傷ができていて、少し腫れている
「まぁ、こんな時間まで何処に行っていたの!」 「……ごめん、なさい」 「早く入りなさい!貴方はご飯抜きです!」
さっきの騒がしい子供とは違う少し年配の女が子供に近寄り、子供の頬を叩いた 女は子供の細すぎる腕を掴み、家の中へと乱暴に放り込む
あの子供が虐めを受けている事は一目で分かった よく見ると体中に痣や切り傷があったし、服の隙間から真新しい青痣が見え隠れしてた それにあの子供は痩せ細っていたしね
『悪魔の子…か』
僕のような扱いを受けてる子供 悪魔の子と蔑まれ、石を投げられている子供 でも僕とは違う あの子供には僕のような魔力がない 自分を守る術がないのだ
僕は扉をすり抜けて孤児院の中に入る 先程あの子供に石を投げていた騒がしいマグル達は楽しげに食事をしている でもあの子供は見当たらなかった 本当に食事を与えないつもりかあの女
騒ぐマグル達を尻目に、事務室へと入り込みあの子供の部屋は何処か書いていないかを探す すると子供のデータが書かれた書類が貼り付けられたコルクボードを見つけた なんて個人情報の管理が行き届いていない所なんだ 僕のいた孤児院の方がマシに思えてくる
何枚もの書類に目を通していると、特徴欄にアルビノと書かれた書類を見つけた
『これだ…202号室、名前は…ヴァイス、苗字は不明か』
あの子供の名前はヴァイス 苗字は不明 推定9歳 名前だけ書かれた紙と共に籠に入れられて孤児院の前に捨てられていたらしい 差し詰め、捨てられた原因はアルビノだったからだろうね ある程度の情報がわかったから良しとしよう 僕は事務室を出て202と書かれた部屋へと向かった 202と書かれた部屋を見つけて、扉をすり抜けると、そこにはあの子供がいた 子供はベットに腰かけて俯いている
部屋に入った時、僕は驚いた 確かに僕と似ている所は多々あるけれど、部屋まで似ているとは思わなかった 寧ろ僕より酷い
子供の部屋にはベットと木箱しかなかった 見えない事を良い事に木箱の中身を覗くと、そこには今着ている薄手の服と同じような穴の開いているボロボロの服が一着程入っているだけだった 殺風景すぎる やっぱり僕の居た孤児院の方が幾分もマシだね
僕が部屋を散策していると、ぐぅと小さな音が聞こえた 腹が減ったんだろう 僕は子供の前にしゃがみ込んで子供の顔を覗き込んだ 子供の赤い瞳が僕を見つめる といっても見えているわけではないけれど
「僕は…」 『ん?』 「僕は……生まれちゃいけなかった?」
ぽたり、 その言葉と共に僕をすり抜けて一粒の涙が床へと落ちた 無表情のままぽたりぽたりと僕に雨を降らせる子供
嗚呼、可哀想に この子供はきっと、悲しみ方がわからないんだ
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