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全ての感覚が消えていく
最も恐れていた死が、俺様を…僕を飲み込んだ

気付けば僕は真っ暗な場所に立ち尽くしていた
辺りを見渡せば、まるで映画のように僕の人生が映し出されていた
嗚呼、これが世に言う走馬灯というやつなのだろうか

ふと音が聞こえて、音の方を向くと
そこには幼い僕とあの狸がいた
僕は箱を持っていて、狸は箱を持った僕をあの目で見ている


嗚呼、思い出しただけで腹が立つ




今思えば、誰からも望まれない命だった
母も父も僕を捨てた
孤児院の子供も職員も僕を悪魔の子だと蔑んだ
初めて会った魔法使いでさえ僕を疑いの眼差しで見ていた

箱いっぱいに詰まった誰かの大事な物
僕にはない、大事な物
僕の世界には必要のない物だ
だから奪ってやった
それの何が悪い

僕は特別なんだ
特別な僕が持っていない物をマグル如き下等生物が持っていていいはずがない
それに、大事な物なんてお荷物じゃないか
ヨーヨー、銀の指ぬき、それから錆びたハーモニカ
それが大事な物?
何の役に立つ
ただのガラクタじゃないか
だから奪ってやった
それの何が悪い

僕は、特別なのに



プツリ、映像が途切れた
そして次に映し出されたのは学生時代の僕だった
万人受けする微笑みを顔に貼り付けて、僕の表面しか見ていない愚民の相手をしている
確か、この時僕は下僕を作る為に誰からも好かれる優等生の演技をしたんだ
少し微笑みかけてやれば僕に惚れる女
少し話しかけてやれば友人面をする男
どちらも僕の興味を引くにはお粗末過ぎたけれど

プツリ、プツリ、
映像が変わっていく
ボージン・アンド・バークスで働いていた時
僕を蔑んだ愚図共への復讐の為に兎を操った時
気まぐれに遊んでやった女との情事
僕の命令に逆らった下僕に磔の呪文をかけている時
そして、僕の最期の時







ブツリ、
映像が途絶えて、辺りはまた暗闇に戻った
何だ、もう終わりか
興醒めた

しばらくその場で立ち尽くしていたが、どうせ此処にいたってどうしようもないんだ
僕はゆっくりと暗闇の中を進んだ
その時だった



『…っ、ふ、ぇ』




僕の背後で子供の泣き声がする
足元を見ると、後ろから青い光が僕を照らしているようだった
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこは孤児院の僕の部屋だった
タンスとベットしかない殺風景な部屋が、月の光で青白く照らされている



『う、ぅぁ…っひ、』



ベットに腰掛ける小さなその子供は傷だらけだ
痩せこけた脚や腕には青痣や切り傷がたくさん散らばっている
額は少し血が滲み、青い瘤が出来ていた
外は雪が降っているのに、その子供はボロボロの薄手の服しか着ていない
ふるふると身体を震わせて、嗚咽にあわせて肩を揺らすその子供は何度も何度も手で涙を拭っている
どれだけ拭っても止まらない涙は床に染みを作った



『、ひっ、…ぼく、は…っぼくは、あくまのこじゃ、ないっ、のに…っ』
「…泣くな」
『ひっ、く…ぅ、』
「泣くな」
『ぼく、は…こんな、こんなせかい…っ、のぞんで、ない、のに…!』

『どうして、どうしてだれもぼくをあいしてくれないの…!!』










本当は…本当は、わかってた
僕のやっている事は間違っている事も
僕が望んだ世界は、純血で溢れる世界ではない事をわかっていたんだ

本当はずっと愛されたかった
手を繋いでほしかった
生まれてきてくれてありがとうと言って欲しかった
悪魔の子なんかじゃないって否定して欲しかった
僕を必要としてほしかった
居場所がほしかった
僕を、僕という存在を認めて欲しかった

でもどれだけ頑張ったって誰も僕を愛してはくれなかった
伸ばした手は何度も振り払われた
生まれてこなければよかったのにと何度も言われた
悪魔の子、化け物、気味が悪いって誰もが口を揃えて僕を罵った
誰も僕を必要としてくれなかった
居場所なんて何処にもなかった
誰も僕を認めてはくれなかった

だから特別という言葉で僕は僕を偽るしかなかったんだ
特別な僕には愛情なんて必要ないって言い聞かせるしかなかった
惨めで、胸が痛くて、苦しくて、つらくて
それでも誰も僕を助けてはくれなかった
僕を待っているのは絶望だけだった

ただ、愛される世界が欲しかったんだ
でも特別という言葉で自分を偽れば偽る程どんどん逃げ道はなくなっていって
どっちが本当でどっちが嘘かもわからなくなっていった
引き返せなくなってしまった
僕は、愛情を望む僕を殺したんだ

公園で楽しそうに駆け回る子供が羨ましかった
帰る家がある家族が羨ましかった
愛される人間が羨ましかった
愛することができる人間が羨ましかった

本当は、…本当は…











「ぼくだって、愛されたかった…!」



ただ、ただ愛されたかった













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