07
結局ヴァイスは小食のようでおかわりをする事はなかった 僕は少し心配したけれど、大丈夫だと頑なに言い張ったから妥協することにした 少ししてからヴァイスが本を読みたいと言うから書庫まで送って、僕はヴァイスの殺風景な部屋に戻る きっと彼がこの時間に読む本と言えば『悪い魔法使い』だろうからね ヴァイスに僕の存在が認識されていない時はたまに一緒に書庫で読んだりしたけれど、姿が見える今となっては何だか気恥ずかしかった
ヴァイスの部屋についた僕はとりあえずこの殺風景な部屋をなんとかしようと考えた とりあえず食べ終えたまま放置している皿を魔法で消す 元から返すつもりなんて更々無かった 1枚や2枚なくなったって気づくのかも怪しいしね
さて、何から手をつけようか やる事は山済みだ
部屋の隅にある蜘蛛の巣やほこりを綺麗さっぱりなくしてしまわないといけない ヴァイスの健康を脅かす全てを排除しないと安心できないし
この染みやくすみだらけの壁も床も天井も、いっそのこと模様替えしてしまおうかな どうせ天井の豆電球は古くて光がともりやしないんだからホグワーツのように蝋燭を浮かせようか 1年ほどこの部屋にいたけれど、扉を開くのは僕かヴァイスだけだし大丈夫だろう
簡易ベットの錆だってなくして新品同様にしよう 薄いマットもシーツも布団だって全て冬使用にしてしまおうかな マットは分厚くて寝心地のよい物にして、シーツは温かく保温性のあるもので肌触りのよいものにして、布団はいっそのこと羽毛布団にしてしまおう そうすればきっとヴァイスはもう震えなくて済むからね 嗚呼そうだ…服の穴も治してしまって、木箱にある一着は冬用に保温魔法をかけておこう
『スコージファイ』
僕が魔法を唱えると、部屋が瞬く間に綺麗になっていく 蜘蛛の巣が消え、埃で白くなった床は元の色を取り戻した さて、床の色は何にしようか温かみのある色がいいな 今みたいな古びた木の色ではなくもっと生き生きとした木の色がいい そうしようか 僕がふわりと宙に浮かんで、床全体を眺め魔法をかけようとしたその時だった
バタンと勢いよく扉が開き、あの虐待女が部屋をキョロキョロと見渡しだした ベットや木箱の中を探して、それでも目当ての物が見つからなかったのか、女は腹立たしげに声を荒げた
「どこに隠したのかしら!嗚呼本当に卑しい子だわ!さっきだっていきなり私が身動きをとれなくなったのはあの子のせいよ!」
キイキイと金切声で怒鳴る女 そうか、この女はそんなに僕を怒らせたいのか 丁度いい、この女でどの程度の無言呪文ができるかどうか試してみようか 僕は女が窓際に立ちキョロキョロと周りを見渡した時を狙って窓を壊す と言ってもまるで窓の立てつけが悪かったかのように見せる為に少し窓枠の木を腐らせただけだけどね 正直この窓も変えてしまう予定だったし壊れても何も損はない それに直せるしね
女は驚いたのか五月蠅い程の奇声を上げた 服が所々破れて、足や腕に小さな切り傷ができている 少し怪我をしただけで痛い痛いと喚く女のなんと滑稽なことか 僕の愛しいヴァイスの方が何倍もの怪我をしているというのに 叫んでいる女を無視して、僕は窓を直す すると独りでに宙に浮き元の形へと戻っていく窓を見て、また女が悲鳴を上げた 本当にうるさい
女の叫び声を聞いて、何人かの子供と職員が部屋に駆け付けた 女は仕切りにあの子供が何かをしたと叫んでいるが、どれだけ何を叫ぼうがヴァイスはここにはいないのだから限りなく信憑性のない話だ 誰も信じやしない それにやったのはヴァイスじゃないしね 挙句、窓ガラスが私に襲いかかったと叫んでいるけれど、窓ガラスがもう修復済みだしね 職員の一人が疲れているのよ、と女の事を支えて部屋から連れ出す それに連れ添うように野次馬も部屋から出て行った
『…ふふっ』
なんと滑稽なことか あの職員の目見たか? 窓が割れたのだと叫ぶ女を憐みの目で見ていたぞ マグルなんて所詮そんなものだ 自身の創造の範疇の出来事でないと受け入れやしないのだ 想定外の出来事は全て妄想と思い込み、信じやしないんだよ 頭の可笑しい女が何か喚いている程度にしか周りは感じないんだ それが忌々しいマグルの世界なんだよ
僕は女の事を頭の隅に追いやって床に向かって魔法をかけることに専念した 嗚呼、早く帰ってこないかな ヴァイスが部屋に戻ってきたら、どんな反応をしてくれるだろう そうだ…僕とヴァイス以外はこの部屋の変化に気づけないようにもう一工夫しないと 招かれざる客が着た時の為に、ね
ただの模様替えだというのに、部屋の掃除だというのに 君が関わっているというだけでこんなに楽しいだなんて知らなかった
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