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保護者ですから



トムの様子がおかしい
無理矢理起こした昨日の晩から目に見えておかしかった
いつもなら朝から元気に飛びついてきてあわよくば情事にもっていこうとするのに今日は普通に起きた
そして元気がなさげにおはようと一言言って、俺の手をぎゅっと握った
まるで俺の存在を確認するかのように弱弱しく握ってきたその手は、微かに震えていた

きっと昨日、凄く怖い夢を見たのだろう
ベタに言うのなら俺がいなくなる夢みたいな

今日は朝から魔法薬学の授業があった
いつもは俺とペアを組もうと意地になっているのに、今日はアブラクサスとペアを組んだようだ
無理に俺と組めなんて言うのもだめな気がして
俺はオリオンと組むことにした
オリオンは不思議そうだったが、仕方がない

俺は薬を作りながら、オリオンに昨日の事を話してみた
同室だったオリオンなら何かわかるかなと思って
でもオリオンもわからなかった

魔法薬学が終わったと同時にアブラクサスとトムは空き教室に籠もった
それを俺とオリオンが見ていたのも気付かずに




「な?おかしいだろ?」
「悪夢かぁ…でも、そこまでって事は余程強烈だったんだろうな」
「んー、魘され方が尋常じゃなかったからな」
「…よし!聞き耳立ててみるか!俺がこの前ドンコで買った悪戯グッズが多分使えると思う」
「…あんま気は進まないけど、仕方ないな…気になるし」
「んじゃーこの耳の方をドアに貼り付けて」
「おう」




俺達は空き教室から少し離れた所に隠れた




"…僕は、もうマグルを恨んでないんだ"
"わかっていますよ…ルシアと出会って貴方は変わりましたから"
"マグルだとか、純血だとか、もういいんだよ…だって僕には彼がいる…確かに僕は全てを闇に染める事を望んでいたさ…永遠の命を手に入れて、闇の帝王になるってね"



「あー、…」
「…闇の、帝王?」
「昔だよ昔!トムはマグルをすっげぇ恨んでたから…マグルを排除するって意気込んでて、俺もアブも、トムの部下だったんだよ元は」
「は?」
「でも、トムがお前に恋してさー…もうマグルとかどうでもよくなったって言ってさ、最初は俺達反対したんだけどアイツがあまりにも楽しそうでさぁ…俺達ももういいやぁーって」
「何それ!?ヤバイ話じゃん!?」
「ある意味お前って英雄なんだぜ!」
「だぜ!じゃねぇわ!!」
「でも、どういうことかわかったな」
「…何が」
「昔の野望絡みで、お前を殺す夢かなんかを見たんだよ多分…で、不安になったんじゃね?いつかお前を殺すことになるんじゃないかって」
「…」
「それに、昔の野望がバレたくもなかったんだろうよ…嫌われたくないから」





正直ついていけない
だって闇の帝王とか永遠の命とか
俺にとっては縁のない話ばかりで
怖い
もし俺がアイツをあの時助けなかったら
俺は殺されていたんだって考えるとどうしようもなく怖い

でも、それと同時に
野望より俺を選んだことに愛しさを感じている自分が少なからずいて
こんな怖い事考えてた奴に愛情を抱ける自分も怖い

俺、今アイツを目の前にして、いつも通りでいれるのかな
アイツと距離をとろうとしてしまわないかな
アイツを傷付けてしまわないかな


そうやって考えているうちに俺は自室にいた
電気もつけることなく、窓にカーテンを引いて
ただベットに腰掛けて

どれぐらいの時間俺はぼーっとしていたんだろう

ガチャリ、とドアの開く音がする




「…ルシア、?…お昼、食べないの?」




俺は返事もできなくて
トムは不安そうな顔をしながら部屋に入った
ルシア、と俺の名前を切なげに呼んで
だんだんと泣きそうな顔をして

嗚呼、俺、やっぱりトムが好きなんだよ
あんなすげぇ事聞いちまったのに
泣きそうな顔をしないで
笑ってって
そう思うって事は、好きって事だろう?




「お、願い…返事して、…ペア、他の人と組んだの、怒ってる?ごめんなさい、僕、昨日の、夢の事で、悩んで…だから、」

「トム」



俺が名前を呼ぶと、トムはもっともっと辛そうな顔をして
嗚呼、そんな顔させたかったんじゃないのになぁなんて

つか、俺そんな風にな男って思われてたのか?
ペアぐらいで怒んねぇよ俺

あー、何だか、悩んでんのが馬鹿らしい
悩むだけじゃ何も解決しないじゃないか
そうだろう?
俺は行動が大事精神で今まで生きてきたじゃないか

それにさ、トムに殺されるなら、まぁ…なぁ?
死にたくなんてないけれど、




「本望じゃね?」
「…え、?」
「ああ、いや、こっちの話」
「ルシア…?怒ってる?」
「ははっ!ペアぐらいで怒るかよ」
「なら、いいけど…」
「なー、トム…」
「ん?なに?」
「俺、お前になら殺されたっていいよ」
「………え?」




ああもう、そんな顔すんなよ
勘の鋭いお前は会話を聞かれてたってすぐわかってしまうんだろうけどさ
俺の深い深い深すぎて気持ち悪い程の愛情はわかってないんだ




「勘違いすんなよ?死にたいわけじゃないし、俺は寿命で死にたい派」
「…ぁ、…あ、…ごめん、なさい…!嫌わないで!今は、もう、…!」
「本当、馬鹿だなぁ…勘違いすんなっつったじゃん」




珍しく?俺から抱き締めてやる
トムの顔は見えないけれど、近付いたその身体から、振るえと心臓がバクバクと脈打ってるのが伝わってきて
早く不安を取り除いてやりたくて




「俺は、その怖い怖い野望より、俺をとってくれて嬉しかったんだよ」
「ぇ…?」
「んー、何て言っていいかわかんないけどさ、正直怖いよ…だって俺がお前に声かけてなかったら俺は近い将来殺されてたかもしれないんだろ?」
「そう…だね、僕は、君を殺してたんだろうね…、」
「でも、今はそうは思ってないんだろ?」
「…思え、ないよ…こんなにも好きなんだよ…?傍に、いたいって…初めて思えたんだ」
「うん、それが俺は嬉しいんだよ…説明下手だけど、俺は、今がまぁまぁ幸せだ」
「…本当に…?」
「あんな怖いこと聞いちまったのにさ、トムの事好きだって思ってるんだよ…お前になら殺されたって本望だーって思えるくらい」
「ルシア…っ」
「だから過去の事で悩むなよ…今はもう違うんだからさ」
「う、ん…」
「…ちゃんと、愛してるから…まぁ、愛想尽かされないように頑張ります」
「うん…!」
「よし、腹減った…飯食べに行こう」
「うん…ねぇ、ルシア…」
「んー?」
「僕も、愛してる…今が、すっごく、すっごく幸せだよ」
「ん、知ってる」





大広間に行ったらオリオンとアブラクサスがこっちを見て、目を瞬かせて楽しそうに笑った
それを見てトムも笑って
嗚呼、何だか今本当に幸せだなぁなんて

まったく…俺爺臭くなったな





「すぐ仲直り?したな!」
「喧嘩とかじゃないんですから、仲直りはおかしいでしょう」
「まぁ、僕とルシアの愛の力に悪夢は勝てなかったってわけだよ」
「悪夢に負けかけてたくせに…」
「オリオン?」
「すみません」
「僕の全てを受け止めてくれるルシアって本当に恋人の鑑だよね!!」





あ、コイツちょっと調子乗ってるな?




「恋人…?」
「え…!?恋人だよね!?僕と君は恋人だよね!?」
「いやいや、俺は馬鹿なお前の」










保護者ですから




「保護者!?え、保護者!?」
「あっはっは!!」
「オリオン、笑いすぎですよ…」
「保護者だろ?お前が餓鬼になった時だって俺が面倒見たし?」
「あ、でも…父×娘とか萌える!!」




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