中指に花。


銀魂
土方十四郎×神楽



ふわり、ふわふわ。穏やかな風に揺れる日だまり色の髪は、日の光に透けて金に近い色に変わる。普段は女とは思えぬ程お転婆な彼女だが、土手に咲く名も知らぬ野花を摘む姿は年相応の幼い少女だ。白い肌に薄く射す頬の桃色や空を写したような青の瞳を軽く伏せる横顔は、そこらの女よりたぶん、ほんの少しくらいは綺麗だと言えるかもしれないと、そんなことを大人しく伏せた形で寝転ぶバカデカイ白い犬の腹部分に収まる少女を見つめ、ぼんやりと考えていた。

切っ掛けは何だったか。

確か喫煙所を探して歌舞伎町を徘徊していたのが始まりだったのかもしれない。喫煙者には生きにくいご時世となった昨今、例え携帯灰皿を持っていたとしても煙草を吸える場所は限られている。そしてついに屯所ですら禁煙となった今では、誰にも嫌な顔をされずにゆっくりと煙草を吸える土手に赴くのが癖となっていた。最初は一人でひっそり、柄にもなく空を見上げながら紫煙を燻らせていたのだが、そんな中にいつの間にかバカデカイ白い犬が増え、チャイナ娘が増えた。

特別合う会話はなかった。趣味も年齢も、人種さえもが違う俺たちに共通の話題があるなど微塵も思っていない。それはチャイナ娘もわかっていたはずだが、何故か彼女は良くここに顔を出した。当初は「暇だから」「定春がいるから」と言い訳のように理由を述べていたが、今となっては何も言わず、姿を見かけるとちょこんと手がギリギリ届かない、人二人分くらいの感覚を開けて腰を下ろすのだ。何が楽しいのかなど解るはずもないけれど、チャイナ娘は思いの外この空間を気に入っているようだった。

子供になつかれた記憶など一度もない俺は、彼女への対応に悩まされることもしばしばだ。真選組鬼の副長と恐れられるこの俺が、子供一人に頭を悩ませているなどと一体誰が思うだろう。困惑半分、情けなさ半分にチャイナ娘の様子を窺うと、彼女は真っ赤なチャイナ服に包まれた膝の上にバラバラと摘んだばかりの花を散らばせていた。


「……何してんだ」

「花かんむり作ってるアル」


そう言った彼女は難しい顔でコネコネと花を弄くり回している。彼女の体温にやられたのか、膝の上に落ちてゆく花はどれもクタリ、と萎れて元気がない。


「作り方知ってんのか?」

「知らないアル。見よう見まねネ」


どこか自慢気に胸を張るチャイナ娘に呆れながら、俺は指に挟んでいた煙草を口の端に咥える。そして軽く溜め息を吐きながらチャイナ娘に近づき、中途半端に(半ば無理矢理)繋げられた花を小さな手から掬い上げた。

小さな太股の上に落ちるくたびれた花の中で、まだマシなものを適当に見繕って繋げてみせた。それを見た彼女が意外そうに目を丸めた姿が視界の端に映り、言い訳のように「昔、兄貴に教わったんだよ」と小さく呟いておく。しかし、それでも彼女は可笑しそうに、楽しそうに「意外とトッシーは器用アルな」と笑った。

足りない花を足元から足しながら、幼い頃の記憶を呼び戻す。確か歳は10になる前だったか。手先が器用だった義兄と作ったのが最後で今までそんな事実さえ忘れていたのだが、実際に花に触れてみると案外覚えているもので驚いた。指先に向けられる熱い視線に居心地の悪さを感じながら、そろそろ頃合いかと端と端を繋げてチャイナ娘の頭に乗せてやれば、彼女は嬉しそうに礼を言う。


「似合うアルか?」

「似合う似合う」


適当にそんな相槌を打ってからふと思う。普通は女が花かんむりを作って男の頭に乗せてキャッキャ言うものではないのだろうかと。いや、別にチャイナ娘とキャッキャしたいわけではないけれど。それよりも今は鬼の副長として《花かんむりが作れる》という事実は隠蔽したい。特に毎日のように俺を亡き者にしようと色々仕掛けてくる一番隊隊長には知られたくない俺はチャイナ娘に「誰にも言うなよ」と念を押してから、短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けて新しい煙草に手を伸ばした。


「なんでダメアルか?」

「大人には面子とか色々あんだよ」


ふぅ、と吐いた紫煙を眺めて目を細めれば、不意にグッと手を引かれた。なんだと思いながら視線を下げれば、小さな旋毛が見える。


「花かんむりは出来ないけどコレなら昔から得意だったネ」

「……」


自慢気にそう言った彼女が小さな手を離せば、そこに見えたのは俺の指先にくくりつけられた花だった。指輪のつもりなのだろうか。いい歳した男がこんなものをつけるだなんて端から見れば承知の沙汰ではないだろう。外そうか、と頭を悩ませていると、チャイナ娘はニコニコと笑いながら「かわいいダロ」と言って俺の顔を見上げるのだ。


(くそ、んな顔すんなよ)


これでは外すタイミングを失うではないか。俺は指にくくりつけられた花を見つめながら、諦めた様に「そうだな」と返しておくことにした。











中指に花。
(無邪気に笑う彼女に戸惑う)











2012.10.28

初の土神(笑)
かわいい!土神かわいい!

( 39/51 )