Songs for you 08

いよいよ本選の日がやってきた。
本選に進んだのはシリウス以外に4人。
計10人で羽根を争うことになる。
予選では共に戦った娼婦や従業員も、今回は観客として客席にいる。
酒場の片隅で行われた予選と違い、きちんとした舞台が用意されていた。

「こんな所で歌うの、緊張します…」
トワが言うと、ソウシが微笑む。
「そんな時のために緊張しない薬調合したけど、飲む?」
思わず頷きそうなトワに、ナギがジュースを差し出して言う。
「これでも飲んで落ち着け。変な副作用が出ても困るだろ」
「今回は大丈夫だと思うけどな」
にこにこと話すソウシに、ナギは尋ねる。
「完成してから、誰かに試しましたか?」
ううん、と笑顔で話すソウシにナギは溜め息をついた。

「ファジーさん、私こんな服着れません…」
露出こそ少ないものの、高級そうな白いドレス。
無理矢理ファジーに着付けられながら、○○が困ったように言う。
「何言ってんだい、晴れ舞台だろう?これくらいやらないで、いつやるっていうのさ!」
○○に似合う青いオーガンジーのストールを巻いて、完成だ。
満足そうに○○を見るファジーも、胸が大きく開いた真っ赤なドレスを着ている。
「ファジーさん、今日はHabaneraを歌われるんですよね」
「あぁ、そうさ!情熱的な愛のオペラ、カルメンの名曲だよ!」
(ファジーさんも上手かったもんな…きっと今日も素敵なんだろうな…)
○○がファジーを見ながらそんなことを考えていると、ファジーが言った。
「そういうあんたは、何を歌うのさ?」
「え?えっと私は…」

そこまで言いかけた時、突然バン!と扉が開いた。
「ちょっと何なんだい?!レディーが着替えてるっていうのに、失礼じゃないか!」
入ってきたのはハヤテだった。
「わ、わりぃ。けど…ヤバいことになってて…」
「一体、どうしたっていうんだい?」
ファジーが訊くと、ハヤテは○○の方を見て言った。
「バンドが、○○の楽譜だけ貰ってないって…」
「「えぇっ?!」」
○○とファジーの声が重なった。

「じゃあ、私の分だけ受け取ってないってことですか?」
○○がバンドに確認に行くと、やはり全員○○の分の楽譜だけが届いていないという。
(予選が終わった後、執事さんに渡した筈なのに…)
がっくりと肩を落とす○○に、ピアノに寄りかかった男性が言った。
「君は、予選でO Holy Nightを歌った子だね?」
「…えぇ、そうですけど…」
力なく答えると、男性は続けた。
「同じ曲で良ければ、弾いてあげるよ」
「本当ですか?!」
男性が他のメンバーを見ると、全員が大きく頷く。
「でも本来違う曲でなければならなかった訳だから…アレンジは変えていいかい?」
「はい!」
○○の返事に、彼らは男性の合図で弾き始めた。

ピアノの旋律から始まる前奏に静かなドラムが重なり、ウッドベースの深い音にギターの音色が溶ける。
ハチロクの心地よくゆったりとしたリズムを使い適度にアップテンポにアレンジされていて、アカペラで歌った予選とはだいぶ違った雰囲気がある。

「ありがとうございます!」
バンドが1コーラス弾き終えると、○○は深々と礼をした。
「気に入って貰えて良かった。予選の君の歌、良かったよ。本番も頑張って」
そう言ってバンドは再び練習に戻る。
もう一度大きくお辞儀をして、○○はバンドの控え室を後にした。

○○が控え室に戻る途中、例の娼婦が声をかけた。
「バンドに楽譜が届いてなかったんですって?運が悪かったわね、お気の毒さま」
○○を見下すような笑みで、娼婦が言う。
「え、えっと…」
「どうしたんだ?」
○○が返事に戸惑っていると、娼婦の後ろからシンが来る。
「何でもないわ、シン」
○○に見せた顔を素早く誘惑する女のそれに変えて、娼婦はシンに微笑む。
「あっあの、楽譜はありませんでしたけど!なんとか演奏していただけることになったんで大丈夫です!」
それだけ言って軽く会釈してから○○は走り出す。
そんな○○を一瞬ちらりと冷たく娼婦が見たのを、シンは見逃さなかった。

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