Songs for you 07

シンが歌ったのはバッハとグノーによるAve Maria。
ウルならではの魅力的な歌声で見事に歌い上げる。
エスコートした娼婦のみならず、その場にいる女性全員を虜にする華麗な声。
普段人前で歌うことのないシンだったが、船長命令だからと不本意ながらも本気を出したのだった。

○○がファジーと服を買いに行っていた日、シンは娼婦の相手をする以外にある調査をしていた。
このAve Mariaが老人のお気に入りであることを、極秘裏に突き止めていたのだ。
シンには自信があった。
○○の歌は確かに素晴らしかったが、老人は自分の歌を気に入る、と。

しかし、歌い終わったシンに老人が告げた言葉は意外なものだった。
「貴方は、美しい声を持っていらっしゃる。技術も十分だ。でも、私には貴方の心が見えない」
「は?」
思わずシンは訊き返す。
「本選では、貴方の気持ちを見せてください。古い曲にこだわらなくても結構ですよ」
フン、とステージを後にするシン。
その顔からは、明らかな苛立ちが見えていた。

シンの後に続くのはシンがエスコートしてきた娼婦だった。
裏へ引っ込む直前、入れ替わるように出てきた彼女の手に、すっとキスを落とす。
本物の歌姫さながらに優雅に微笑むと、娼婦はマイクを取った。

Amazing grace how sweet the sound

豊かな声量に、パワフルな歌声。
骨に響くような低音に、鮮やかに抜ける高音。
まさに、ディーヴァだった。
黒人ならではの強さに、会場の誰もが息を呑む。
恐らく参加者の全てが、彼女の優勝を確信しただろう。

完璧なその歌に、シンも満足そうに拍手をする。
選考会だというのに、立ち上がって拍手する者まで現れた。


シリウスのメンバーは、ハヤテとソウシを除く全員が本選へと進むことになった。
「ソウシさんは分かるけど、なんで俺まで…」
「なんか言ったかい、ハヤテ?」
ぶつぶつと文句を言うハヤテに、ソウシが黒いオーラを出しながら微笑んでいる。
「な、なんでもないっすよ、ソウシさん」
冷や汗をかきながらハヤテが答えた。

「まぁ、8人中6人が予選通過だってんだから、上等じゃねぇか」
ガハハと笑いながらリュウガが話す。
「しっかし、○○とシンには驚いたぜ」
「まさかあんなに上手いなんてな!」
「二人とも、すごく素敵だったよ」
「僕なんて鳥肌立っちゃいましたよ!」
「あんた、すごい特技持ってたんだねぇ」
みんなに褒められる○○だったが、その顔はやはり浮かない。

自分の歌が終わって、悪くない評価をされてほっとした○○。
続くシンの歌声に、驚くよりもただ感動した。
自分と同室のこの人は、ここまで神に愛されているんだと。
何でもそつなくこなすシンのもう一つの才能に、己との違いを実感してしまう。
気付いたら、目に涙が溜まっていた。

だがその感動も束の間、続く娼婦のAmazing Graceは、文句なしに完璧だった。
あれほど素敵だったシンの歌さえ霞んでしまうほど。
そんな歌を歌う女性を、シンが歌姫のように扱っている。
手の甲にキスをするパフォーマンスがあまりにも絵になっていて、本当にお似合いだった。
自分の中で芽生えた感情の意味を理解しきれないまま、○○は溜め息をついた。


「シン、どうしたの?」
店まで娼婦を送り届ける。
シンの腕に手を回して歩きながら、娼婦が尋ねた。
「何がだ」
「貴方、どこか上の空よ?」
先程○○の歌を聴いてから、あの歌が、あの姿が、頭から離れない。
自分がどこかに忘れてきた何かを、○○は知っている気がする。
「何でもない」
フッと笑って娼婦の頬に手を当てる。
もう、彼女の店の目の前だ。
軽くキスをして抱き締めてやる。
(女なんて、このくらいしておけば十分だろう)
そう考えるシンの腕の中で、娼婦は鋭い目をしていた。

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