Songs for you 06
予選当日。 ファジーと一緒に買った淡いブルーのワンピースを着て、○○も他のメンバーと共に会場へ向かう。 「あれ?トワくん、シンさんは?」 昨夜、全員宿の一階に集合と言われていたのに、シンの姿が見えない。 ○○が尋ねるとトワが朗らかに答えた。 「あぁ、シンさんなら女性をエスコートするから先に行くって言ってましたよ」 「エ、エスコート?」 戸惑う○○にハヤテが言う。 「なんでも、娼婦の一人がえらく歌が上手いんだと。万が一羽根がそいつの手に渡った時の為に今から売り込んでおくとかってさ」 「あの女は、俺よりシンがお気に入りみてぇだからなぁ」 リュウガが少し残念そうに言う。 「船長は自分の心配した方がいいですよ?昨日も随分飲んだんでしょう、声が出なくても知りませんよ」 ソウシに言われてへーへーと気のない返事をしている。 「○○」 ナギが俯く○○の頭をポンッと叩く。 「そんなシケたツラじゃ、いい歌歌えねーぞ」 「そうだよ○○、あんたは笑顔が一番なんだから!」 ナギとファジーに励まされ、○○は複雑な気持ちながらも笑った。 会場に着くと、シンが噂の娼婦と仲良く話していた。 褐色の肌にはっきりとした目鼻立ちの女性。 ふっくらとした体格と太めの首から察するに、かなり声量がありそうだ。 まるでプロの歌手のようなドレスに身を包み、どこか本物のようなオーラさえ発している。 メンバーが彼女に挨拶しに行く後ろに付いていった○○だったが、シンは話しかけるどころか○○を見ることもない。 親しそうに娼婦と会話するシンの姿に、○○の心はチリチリと痛んだ。 抽選で決まった順に、予選が進行されていく。 ハヤテは海賊の歌を歌い、トワはTwinkle, Twinkle, Little Starを歌う。 ソウシが故郷の歌らしきものを不安定なピッチで歌い上げると、リュウガはThree Little Birdsを陽気に歌った。 ナギがScarborough Fairを歌い切ってファジーが情熱的な愛の調べを会場に響き渡らせると、いよいよ○○の順番がやってくる。 「お前らしく、やってこい」 他の参加者の魅力ある歌に圧倒されて自信を失いかける○○に、ナギが頭を叩いて言った。 「○○、しっかりやっといで!」 ファジーに背中をバシッと叩かれ、マイクの方へと押し出される。 「っちょっ…ファジーさんっ!」 慌てる○○に、シン以外のシリウスメンバーが笑う。 「いっちょやってこい!」 リュウガに言われて仕方なさげに頷いてから、○○はすぅ、と大きく息を吸った。 O holy night, the stars are brightly shining It is the night of our dear Saviour's birth しんと静まり返った会場に、○○の声が響く。 程よい力強さのある低音に、伸びの良い透明なファルセット。 今まで一度もきちんと○○の歌を聴いたことのないメンバーは、驚きながらもその世界に引き込まれていった。 歌を歌うには決して有利ではない細みの体躯。 しかしその身体から奏でられるメロディーは、会場にいる全員を魅了するのに十分だった。 陰から娼婦と共にその様子を見ていたシンは、○○の歌に驚きを隠せない。 心に沁み渡る、力強くもどこか優しい声。 胸の奥の黒いものが、少し軽くなるような気がする。 「シン?次は貴方の番よ」 娼婦に言われ、シンは慌てて感情を隠すように口角を上げて笑った。
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