Songs for you 05

「シン、気持ちは分かるけど…今のはないんじゃない?」
○○がいなくなった酒場で、ソウシがシンに言う。
シンが何も答えずにいると、更にソウシが続けた。
「○○ちゃんを巻き込みたくないにしても、他に言い方が…」
ソウシの言葉を遮るようにコン、とグラスをテーブルに置いて、シンは言った。
「ドクターには関係ありません、放っといてください」
そんなに気になるなら慰めに行けばいいじゃないですか、と吐き捨てて、女に話しかける。
美味くない酒が一層不味くなるのを、シンは考えないようにして飲み続けた。


「まったく、シン様も何考えてんのかねぇ」
ファジーと共に宿に戻って来た○○は、ベッドに腰掛けて何もない空間を見ていた。
船の上とは違って、シンとは別室だ。
女同士ということでファジーと同室にされるのは嫌ではなかったが、今の○○にはシンの帰りを待つ理由さえ持たないことが苦しかった。
(本当に、私の顔も見たくないんだな……女の人たちと…あんなに楽しそうに…)

「…○○、○○!」
「…えっ、あっファジーさん、ごめんなさい。何ですか?」
見るからに落ち込んでいる○○を見てファジーは溜め息をついた。
(ったく…だから放っとけないんだよ…本当、不思議な子だね)
○○の隣にファジーが腰掛けると、その重みでベッドがぐんっと沈んだ。
「シン様にも、なんか考えがあるんだろうさ」
ファジーの言葉に一瞬戸惑う○○だったが、すぐににこっと笑った。
「ふふ、ありがとう。ファジーさん」
返事の代わりにフン、と言ってファジーはそのまま後ろに倒れ込む。
「明日は一緒に買い物に行こう。せっかくだから大会には綺麗な服を着なきゃね」


翌日○○とファジーが買い物を終えて酒場へ行くと、ちょうど執事が到着するところだった。
通りを歩いてくる執事にぺこりと会釈をして、一足先に店内に入る。
「遅ぇぞ、○○!」
そう言いながら笑うリュウガの隣で、シンはやはり冷たい目で○○を見ていた。
一瞬絡み合った視線を慌てて逸らす○○。
ファジーに元気づけられた心が、また折れそうになってしまう。
ポン、とファジーに促されて、シンと離れた場所に座った。

執事は店内に姿を現すと、数人に一枚ずつ紙を配布した。
見ると、歌唱自慢−大会詳細−と書かれている。
「えぇー、予選と本選違う曲なんですか?!」
詳細に目を通したトワが叫んだ。
「マジかよ、俺一曲しか思いつかねぇ」
「ふふ、迷っていたからちょうどいいな」
「……」
みんなそれぞれの反応を示す。
だが○○は一人、虚空を見つめたまま動かなかった。

「一枚、貰ってくよ」
そう言ってファジーは○○を連れて席を立つ。
「アタイたちは宿に戻ってるから、あとはゆっくりやっとくれ」
宿に戻ってもどこか上の空の○○に、ファジーは何を言うでもなく明るく接した。

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