Songs for you 03

頼んだスコッチが空になる頃、店の奥から客らしき男性が出て来た。
リュウガたちがいる酒場には似つかわしくない上等な服装。
顔に深く刻まれた皺と白髪に合わぬすらりとした長身。
帽子を深く被った老人がぐるりと店内を見渡す後ろで、執事らしき男性がドアを閉める。

この酒場の奥にはサルーンエリアがあり中流階級以上の顧客に使われてはいたが、出入り口はそれぞれにあってエリアを繋ぐその扉が開くことは本来なかった。
バーカウンターから、主人が恭しく礼をする。
一瞬で酒場の空気が変わった。

その変化にいち早く気付いていたシンはその老人を観察するように眺める。
ソウシやナギも例に漏れず、一種の警戒をする。
だがハヤテは目の前の食事に夢中で、自分の分を奪われまいとするトワと○○とファジーにもその余裕はなさそうだ。
リュウガは恐らくその変化をシンと同じように察知していただろうが、相も変わらず大声で女たちと騒いでいる。

「不死鳥の羽根を探していらっしゃるのは、貴方ですかな?」
リュウガとシンの後ろのテーブルに腰掛けた老人が、こちらを向くことなくそう言った。
「…?!」
メンバー全員が思わずその声の方を向く。
ハヤテでさえも、口に骨付き肉を咥えたまま止まっている。

老人は顔を上げると、にっこりと微笑んで続けた。
「羽根を所有しているのは、この私です」
驚きを隠せないメンバーをよそに、老人は話し続ける。
「その昔、孫娘の病を治すためにと入手致しましたが…あの羽根を使った錬金術を扱える術師はもういなくなってしまいまして…」
その孫娘も、3年前に亡くなりました…と話す老人に、全員が言葉を失う。
「この老いぼれが持っていても仕方のないものなのは判っているのですが…」

想い出のつまったその羽根を、そう簡単には手放せないと言う。
残された者の想いというものをそれぞれに知るメンバーは、老人の気持ちが解るだけに言葉が出ない。
ここまでか、と諦めの空気が漂った時、老人が口を開いた。
「一つ、ゲームをしませんか」

「貴方たちの中に、私の心を震わせる歌を歌える人がいたなら、羽根はその人にお譲りしましょう」
老人の唐突な提案に、一同は戸惑う。
「歌、だと?」
リュウガが尋ねると、老人は言った。
「えぇ、孫はとても歌が上手かったんですよ。あの子のように私を癒してくれる歌を歌ってくださる方になら、羽根を差し上げても構いません」

顎髭を弄りながら、リュウガは言う。
「俺たちに歌えって?」
ハヤテとトワとファジーは、ちらりとソウシを見る。
一瞬きょとん、としたソウシはにっこりと微笑んだ。

「私も歌なら、自信あるわよ?」
シンの隣で一人の女が妖艶に笑う。
「あら私だって、昔はディーヴァって呼ばれてたんだから」
リュウガの肩に手を伸ばした女も、色っぽく微笑む。

「参加者はどなたでも構いませんよ」
そう老人が紳士的に言うと、周りにいた女たちや酒場の従業員までもが参加を表明した。
「ったく、ライバルが増えただけじゃねーかよ」
そう毒づいてからリュウガは、メンバーに向かって言った。
「お前ら、シリウスは全員参加だぜ!」

「はーっ、言うと思った…めんどくせー」
「ぼ、僕も歌うんですか…」
「ふふ、それは楽しみだね」
「アタイに任せときな!」
「…」
口々に意見を述べるメンバーたち。
シンもシンで溜め息をついている。

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