言動 /




ボスヒメ突発文
本誌ネタバレ注意
未来設定













あ、と声を漏らしたその時には、既にアイスクリームはコーンからでろりと流れ出た後だった。いい気味だ、とわたしの拳を逃れた彼は笑ったけれど、少し申し訳なさそうな顔もしていた。浮かれた気持ちは一気に萎み、地面に拡がる白く冷たい染みをただ見つめる。えらく甘ったるいそれは多分、わたしの心、だったのだと思う。落ちてつぶれてしまえばもうどうにもできない。
カーキ色のハーフパンツのポケットに手を突っ込んでいた彼は、暫くしてヒメコ? とわたしを呼んだ。聞き慣れていたはずの、その声と呼び方が懐かしくてふと顔を上げる。曇りのない瞳が、曇った表情のわたしを映している。結論を、結果をうやむやにしたことを後悔したことはない、けれど――。こんなにも想っていたのだと、今更ながら思い知る。
「…………さ、」
寂しかったという言葉が口を衝いて出そうになったがそれもどこか違い、結局再び噤んだわたしの口を、彼は不思議そうに見ていた。静かに流れていた風に溺れるように、わたしの中の酸素が失われていく。透き通った景色に涙が滲み、呼吸の仕方も忘れたまま空いている手で彼の服の裾を引いた。狭い世界に引き留めておきたいような、しかし美しく汚い広い世界を見ていてほしいような、入り交じった気持ちが嗚咽となって零れた。そっとわたしの手を包んだ彼の掌は、ぬくくて優しくて、夏の暑さの中でも心地好い。
ただいま、ヒメコ。
近くで、彼の声がする、ただそれだけなのに。詰まった言葉が胸の内で緩やかに膨らんでいく。手が、あつい。止まらない涙をそっと、彼が笑いながら拭ってくれた。

会ったら、言おうと思っていた言葉はたくさんあったはずなのに、嘘みたいにすべてアイスクリームと一緒に溶けてしまい、選んだ言葉はただ一言、おかえりボッスン。




46音ではまだ足りない
(言葉では足りないけれど、言葉に託した。)





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あ行の時点で既に詰んでましたが、た行で力尽きました。











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