動機 /




スイ←澪没文。





薬局の中央で立ち尽くしたように棚を眺め、続けて深く息を吐き出す。陳列された商品は各々の価値を、こは如何に、というほど主張していてその違いがよく判らない。おまけに色んなにおいが入り雑じった店内にじっと身を置いていると鼻の奥がむずむずしてきて、実は今すぐ帰りたい。
もう諦めようかしらという思いの中でふと目についたのは、声優でも女優でも歌手でもある、いわゆるマルチアイドルの彼女がCMをしている商品だった。可愛らしいポップの中に、モモタン推奨、の文字が誇らしげに踊っている。
誘われるように、他のどれよりも数が減っているその商品(なるほどこれが宣伝効果というものなのね)を手に取り、冷たいボトルを数秒見つめてから、レジへと向かった。


「悪霊退散!」で終わる彼との対話は、霊を信じていない人との会話としてはどこか逆説じみていて、結構すきだったりする(絶対に言えっこないけれど)。だからその日もそれで終了かと思ったのに不意に、おや? なんて彼が言うものだから去りかけた足を止めて思わず振り向いてしまった。
髪が、揺れる。いつもと違うにおいがして何かしらと思ったけれど、そうだ、シャンプーを変えたのだった。
彼は暫く私を見ていたけれどやがて、いや……、と言葉を濁した。嫌ね、透けて見えない心は多分、神秘の一つだと思うものの、ひどく不安になる。シャンプー変えたくらいではおもいが届かないのは百も承知だったし、大体にして男子が、スイッチくんが、私のそんなところに気付くはずもないなんて解ってはいた。でも、虚しくなる。私はモモカさんにはなれない、そのことを改めて感じて、ゆっくり事実を嚥下する。
いいにおいのする髪を一束つまみ上げてから恨めしい、と呟き、私はその場を後にした。




動機は多分恋でした
(憧れは遠く遠く、)


「どした、スイッチ?」
「髪が……、」
「は?」
「いや、なんでもない」





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たまに、唐突にスイ澪が書きたくなるのですが、どう足掻いても両片想いまでしか書けない。











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