沿道 /




ボスヒメss





風薫る。涙のにおいを含んだ初夏の風に、寝転がって漫画を読んでいた藤崎は上体を起こした。ったく。言葉の中身とは裏腹に、その声の響きは甘やかすように生温くて優しい。
サッシに肘を置き、開けた部室の窓からおいと外を覗き込む。窓のすぐ下の壁に寄り掛かるように座り込んでいた一愛はその声に少しだけ目線を上げ、けれどまたむすっと下を向いた。
「おーい、」
「…………」
「おーい、ヒメコさーん」
「………………」
「……ぱんつ見えるぞ」
「サイテーか!!」
誰も居らんからええねん、と一愛は膝の上に額を当てる。小さく丸くなった彼女の背中は、少しだけオンナノコ、みたいに見えて、なんだか困った。緩やかに通り過ぎていく夕暮れがその背中に迫ってくるようで、同時に夜の闇に突き飛ばされそうで、藤崎は無意識のうちに手を伸ばした。
ぽん、と軽く背中をたたくと一愛の肩が小さく揺れる。こどもあつかい、と彼女の掠れた声に彼は微苦笑を漏らしてうん、と頷いた。
「誰に何を言われても気にすんな、とは言えねぇけど、でも俺は、ちゃんと見てっから、今のおまえのこと」
「……ん」
「ヒメコ、ヒメコ」
「うん?」
一愛が顔を上げたその瞬間、手に持った筒の紐を引く。ぱあんと破裂音がした後に色鮮やかな紙テープと「元気出してね」の文字が舞った。
「どーだ!? 元気出してねバズーカの小型バージョン!」
「………………くっ、」
堪らず噴き出した彼女は目尻に涙を見せたまま、口を開けて笑い出した。「ただのクラッカーやん!! しょぼっ!!」
「う、うっせー!!」
「――ふはっ、ボッスンとおったら、泣いとる暇もないわ」
「ん、いいなそれ」
「うん?」
サッシに両腕をついてその上に顎を乗せ、彼女の笑顔を見たままふっと口元を緩めた。




笑顔にするよ、何度でも





-----
こっそりお誕生日の贈り物。某様へ。
ずっと前についったのお題で出たやつなのですが、見たいとおっしゃって下さったので……(覚えてないよな^^)
遅くなってしまいましたが、お誕生日おめでとうございまっす!!
2013523












「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -