洞穴 /




笛吹独白






足は歩く為にある。
眼は見る為にある。
耳は聞く為にある。
けれど、話す為の専用器官というものはない。
とすると、話すことは人間にとって必要でも必然でもないということだ。生得的に言語を生成出来るなど、絶対に嘘だ。
馬鹿みたいだ、と笛吹は思う。必要でも必然でもない言葉を獲得したことで、俺は弟を殺したのか――。

言葉それ自身に罪はない――そんなこと彼は充分過ぎるほどに知っていたが、そうでも考えないと心も身体も潰れそうになってしまう。
夢に見ては神経を病み、思い返しては精神が蝕まれ、呼び起こしては思考に影がさす。涙が乾いても泣き続け、思考の隅ではいつも闇が渦巻いていた。

誰よりも饒舌で誰よりも寡黙な彼は指先で思考を伝えつつ、果たして、と考える。
果たして、弟を殺したのは、言葉か、俺か。




生成文法なんかくそ食らえと叫ぶことすらぼくは赦されない。











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