動転 /




ボス⇔ヒメ没文




風が眩しい。春から夏へ変わる季節は早足で通り抜けていくから、こちらが目を背ければ気付くことも出来ない。風が気持ちええなと目を細めながら言うと、知らぬ間に隣に立っていた加藤希里が小さく顎を引いた。どうやら賛成の意を示してくれたらしいと、わたしは何やら嬉しくなった。
夏を控えた空は青く、途切れた迷子の雲がゆっくりゆっくり流れている。くぁ、と欠伸を漏らせば希里にもそれがうつったようで、どうにか噛み殺していた。何やこいつ、結構おもろいやん。
他愛もない会話を広げつつふと下を見る。中庭に一人分の人影しか見えなくて、あれ? とわたしは首を傾いだ。先程まではちゃんと、飛行機のラジコンを飛ばすスイッチと――、
その時不意に、屋上の扉が開いた。あまりに派手な音に顔をしかめて振り向くと、そこには息を切らしたボッスンが立っていた。ものの数分で、中庭からここに駆け上がってきたらしい。
なんで、とわたしが呟くと同時に、希里がくつくつと笑った。わけがわからへん。


(こっそり見ていたのに、急に現れないでよ。)
不時着エトワール
(こっそり二人で会うなよ、知らない振り出来ないから。)


風が青い。春のにおいはまだ残っているのに、夏はそこに被さるように青くささを連れてくる。
スイッチに見守られながらラジコン飛行機を飛ばしていた俺は、機体の向こうの屋上にある人影を見つけ、眉を寄せた。ヒメコ、と思わず漏らすと、隣でスイッチが首を傾げた。どこだと訊かれたので屋上だと答えたが、どうも彼はぴんと来ないようで、怪訝そうに眉をひそめている。
「よく判るな」
「は? だってあんだけ一緒にいりゃ、」
「俺は逆光でよく見えない」
確かに屋上は太陽を背負っていて、人物のシルエットしか判断出来ない。間違いなくヒメコだと俺は判るが、しかしそれが特別なことだとは思えない。特別なことであるとするならば、だってそんなのまるで――、
その時不意に、彼女の隣に並ぶ影があった。長身だから男だろう、どこかで見たシルエットだ。そのまま二人で何か話しているようで、初夏の日差しの下、二つの影がくっついて見えた。
沸々と胃の辺りが熱くて、気が付いたらコントローラーをスイッチに押し付けて走り出していた。スイッチが厭な感じに口角を歪めていたが、気にしている暇もなく全力で駆ける。
肺が軋む。肩を上下させながら屋上の扉を開くと、驚いたようにヒメコが俺を見た。その隣に立っていたのは、ある程度予想はしていたが加藤希里で、口元には読めない笑みを浮かべていた。
ああもうくそ、胃があついし頭がいたい。自分の気持ちに対してどこまでも知らない振りを通せるなんて、俺だって思ってねーよ。












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