同心円 /




ボスヒメss




スピードのついた滑走の後、機体が浮き上がる。小さな窓から外を眺めていた一愛は、ぐ、と息を詰めながらその瞬間を耐えた。浮遊感のような、しかし重力に押し潰されるような、奇妙な感覚に頭の中が白くなる。
遠ざかっていく地上を見ながら、ほんまに浮いとる……、と彼女は溢すように呟いた。浮くって何や、信じられへん。だって鉄の塊やぞこれ人かてこない乗っとるのに、浮くて!! 超常現象やろもはや!! きぃぃぃん、と、ジェットエンジンの音なのかあるいは風を切る音なのか、耳鳴りのような鼓膜の震えが止まらない。じゃんけんで勝って手に入れた窓側の席なのに、今ものすごく後悔している。
あかんこわい!! と思わず胸中で叫んだ一愛の手に、ふと温もりが触れた。へ? と隣の座席に目を移せば、藤崎が静かに眠っていた。出発前、「やべぇこえぇ!!」と叫んでいたのが嘘みたいだった。そういえば昨日は興奮して眠れなかった、と言っていたのを思い出し、一愛は苦笑のような微笑を口元に浮かべる。
「なんや、それ……」
すやすやと眠りこける彼を前に、一愛の恐怖にも似た緊張がするりととけていく。肩の力を抜いて、彼女はそっと、無防備な藤崎の掌を握った。あたたかい。ほぅ、と嘆息のような吐息が漏れた。
「景色見られへんくて、後で泣いたかて知らんで」
ぽそりと呟くと、むにゃ、とか、うむ、とか何か不明瞭な言葉を紡いで、藤崎は眉を寄せた。その顔に一愛は笑みを溢し、もう一度窓の外に目を向ける。雲を突き抜けた機体からはグラデーションのスカイブルーが鮮やかに見えた。雲の下には、空を映した海が落ち着き払って広がっている。瑠璃色、と口の中で転がすとそれはそれは美しい景色のように思えて、帰りはボッスンと一緒に見よう、と密かに誓った。
握り締めた手の温もりが心地好くて、染みるほど綺麗な世界が、更に鮮やかに映った。




同心円上の地上






-----
北海道旅行で、初めて飛行機乗りました。めっちゃ揺れましたが景色は素敵でした。












人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -