道中 /




ボス←ヒメ



夜中に家を脱け出すなんて、かなり、非常に、スリリングだ。そっと足音を忍ばせて階段を下る。真っ暗な階上を振り向いてそこに誰もいないことを確認してから、込み上げてくる笑いをどうにか堪えて一気に駆け降りた。鼓動の音が響いてしまうのではないか、なんて、あり得ないけれど頭を掠めて、そっと掌を胸の上に乗せる。大丈夫、と呟いてドアを開けば、門の向こうにボッスンが立っていた。
ダウンのベストを着た彼は、遅ぇよと顔をしかめて洟を啜った。ごめんて、とわたしはブーツのジッパーを締めながら軽く謝る。良かった、ほんまに居った。
冬の夜の空気は想像以上に冷たくて、自転車の荷台は凍っているのではないかというくらい凍みていた。手持ち無沙汰な手で荷台の細い鉄を握り締めながら空を仰ぐと、濃紺の色地に星が点在している。はぁ、と息を吐き出して白い白い気体の向こうに夜空を見ていると段々、世界の輪郭があやふやになってゆるりゆるりと溶け出したような気がした。
「あ、」
「んー?」
「ボッスン、流れ星!!」
「嘘つけ。ここらへん、全然星見えねーじゃん」
「いや、あったて!! ボッスンも見てみぃ!!」
「わっ、バカ!! こけるこける!!」
蛇行する自転車。慌ててボッスンの腰辺りにしがみついた。あ、しもた。と思ったけれど彼は特段リアクションも示さなかったので、安心したやら悔しいやら、わたしはこっそり溜め息を吐く。僧め。
「スイッチも来れれば良かったのにな」
「あー。アタシら、限定アイテムに負けたねやろ?」
「アイツ、本当そーゆーの教えてくんねーよな」
「まぁええやん。こっちのが有意義かもしれんて」
一本道を進む。車輪の音が、眠る街並みに静かな音を残していく。宇宙から見たらアタシらの方が流星みたく見えんのやろな、と考えるとなんだかこうしているのもひどく「ろまんちっく」な気がした。
寒さを言い訳にしてもっとつよくこのあたたかい背中にしがみつけるようお願いしようかとも思ったけれど、そう願うことすら気恥ずかしくて諦めた。視界の端を、今度こそ確かに流れ星が過ぎていった。




天体観測
(願い事は尽きないはずのに、この温もりに紛れてどれも思い出せないよ。)





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今更ながら流星群ネタ。
上手く書けないなぁ。大阪弁も上手く書けない。












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