動点 /




藤鬼?
時をかける藤崎(笑)





深手、と呼ぶような傷を負っていないことを確かめてから顔を上げると、少し遠くにある高校の制服を着崩した男が立っていた。わたしが持っているのと恐らく同じであろうポップマンの真っ赤なキャップを被り、その上にゴーグルをはめている。柔らかそうな、しかし主張の強い癖毛がちな黒髪と、真っ直ぐこちらを見る猫目が印象的だった。
息を整える間もなく、一度は下ろしたスティックを再び構えて男を見据える。しかし彼は膝丈のパンツのポケットに手を突っ込んだまま、微動だにしなかった。
なんやおまえ、とわたしが言うより先に、ごめん、と彼の口が動く。そうしてすっとポケットから手を抜き去り、静かにこちらに歩み寄ってきた。
「ごめん、ヒメコ、」
一愛、と呼ばれたのだろうか、何故こいつがわたしの名前を――と思った瞬間、片手で抱き寄せられる。わっ、と短い悲鳴を上げて、わたしの額が男の肩にぶつかる。
「な、何を、」
「すぐに見つけるから、おまえのこと。だから、待ってろ」
「は?」
心臓がうるさくて、声がよく聞き取れない。ほんまなんやねんコイツ。
ゆっくりと身体を離されて、顔を上げると彼は泣きそうな顔で微笑っていた。間抜けな面やな、とわたしは身体の力を抜く。火照った頬は未だ治まりそうもなくて、誤魔化すようにスカートの裾を握り締めた。

傍らで先程伸した不良紛いの男の呻き声がして、わたしははっと肩を揺らした。遠くに小さく、猫目の男の背中が見えて、どうしてか切なくなった。
そう言えば彼が着ていたのは、わたしの第一希望の高校の制服であったと今更のように気付き、やっぱりあの高校へ行こうと誓うように決意した。
冷風が金に染めた髪を揺らす。中三も終わりに差し掛かった、初冬の出来事だった。




動点の捉え方
(流れ去る時間を遡って、きみに会いに来たよ。大丈夫、また会おう。)





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これは何なのかと自身が一番問いたい話(^p^)












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