舗道 /




震平と正文
中学時代捏造(同中設定)





狭い路地裏。通り抜けていく風は生温い。足下の小石をじゃり、と踏みつけながら、肩から掛けていた竹刀の鋒を人相の悪い二人組に向けると、相手方はそそくさと逃げていった。
「ふん、」
乱れた髪をがしっと掻き、背後を振り返る。呆気にとられたような表情をしていたクラスメイトはやがて、すごいねと眼鏡の奥の目を細めて笑った。
俺はもう一度、ふんと鼻を鳴らす。
「別に、凄くなんざない」
「なんで? だって僕、武光くんのお蔭で助かったのに……」
「………………、」
俺はただ中途半端なんだ、という言葉を呑み込み、竹刀を仕舞う。柄を握っていた掌がやけに冷たくて、じわじわと神経に妙な痛みが走る。竹刀を握るのが苦痛に変わったのは、いつからだっただろう。
兄上の顔が頭の隅を掠めた。悔しいやら情けないやら、迫り上がる自己嫌悪に吐き気を催す。
暫く俺を眺めていたクラスメイトは、苦笑にも似た微笑を漏らし、不器用なんだねと呟いた。
「武光くんは、もっと前を向いていいのに。――そういうところ、僕の兄に、ちょっと似てるなぁ」
「……なんだ、それ」
レンズの向こうの真っ黒な眼。全てを見透かされそうで、知らず、視線を逸らした。こういう弟を持った兄は一体、どんな気持ちなのだろう。
汗で貼り付いたワイシャツが気持ち悪い。早く帰ろうと竹刀を背負い直して一歩踏み出すと、ありがとう、という声が追い掛けてきた。もうあんなのに絡まれるなよ、と背を向けたまま答える。
ふと、似ているのは俺とアイツの兄ではなく、俺とアイツ自身とではないのだろうかと思った。何の根拠も無いけれど。

中一の初夏だった。




舗道のひとコマ
(兄へのコンプレックスと尊敬で押し潰されそうだった僕らは、)





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twtrにも書きましたが、正文、震平、希里という叶わない弟(分)三人組に思いを馳せる今日この頃です。












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