鉄道 /




ボスヒメ
ヒメコ誕没文





東京の空は汚いから、きっと夜空は何も写さないのだろう――引っ越してくる前は、そんなことをぼんやりと考えていた。しかし思い返してみれば、大阪も、賑やかな街並みの中では、月も星も無かった気がする。

一歩。踏み出せば頭上の川が流れた気がして、わたしは目を見開いた。藍色の空を架ける星の流れに息を呑み込んで、吐き出すタイミングを見失う。言い表すには言葉が足りない。すごいでもきれいでもなくて、もっと、この胸が詰まるような、嬉しくて泣き出してしまいそうなほど美しい夜空を形容する語彙は、ないものだろうか。
「意外と見えるもんだろ?」
隣に立つボッスンが、空を見上げたまま得意気に言う。「晴れて良かった」
「あ、うん、も、何て言えばええのやろ、」
何やろな、喉が詰まる。もしかしたら本当に泣くかもしれない。こいつに出会ってから涙腺が緩くなってしまった。ほんま、困ったことやわ。

夜の学校は、周りにネオンや外灯が無い為、異常なほど暗かった。人気も遮蔽物も何も無い校庭の真ん中に立つと不安の方が意識に迫り上がってきたが、それでも、ボッスンに手を引かれていると不思議と安心できた。信頼。そんな言葉を胸中で呟くと、お腹の辺りがぽかぽかと暖かくなった。そこで不意に、上、見てみ――言われて初めて、そこに在る世界を知った。
星の粒が寄り集まって、白くてまあるい光を流していく。喩えばそれは金魚鉢の水底に沈めたビー玉のようだけれど、きっともっと柔らかくて、触れれば滑らかなのだと思う。そして、指先で掬って舐めてみたら幸せなほど甘いのだろう。

「誕生日、おめでとう」

ボッスンが微笑う。わたしは泣きそうな顔を歪めて、ありがとう、とだけようやく答えた。銀河が胸の中に雪崩れ込んできたみたいだ、水圧で胸が潰れそうで、けれど光の粒できらきらと心が照らされる。ありがとう、連れてきてくれて、ほんまに。最高のプレゼントです。
ぶさいくなかおだな、とボッスンが空気も読まず笑うので、とりあえず平手で肩の辺りをはたいておく。痛い!! と大袈裟に彼は仰け反った。当然の報いや、と言ってはみたけれど、しかしそれは照れ隠し以外の何物でもないと、自分では気付いている、一応。

そういやこれ、スイッチからプレゼントだってよ、と千代紙のような綺麗な短冊のセットを渡される。せっかくだから願い事書くか? と訊かれたが、一番叶えたい願いは今この場では恥ずかしくて書けそうにもなかったから、わたしは首を横に振った。

「あーもう、毎日が誕生日だったらええのに」
「おまえ、一年で三六五歳になる気かよ。ヒメばあ様だな」
「なんかもっと気ィ利いたセリフ言えへんのかあんたは!!」

天上の川は、短冊に書けなかった願いも乗せて、ひとの希望に溢れながらも静かに流れていく。零れそうな白い光の粒が眩しくて、そっと目を細めた。遠慮がちに繋がれた手が温かくて、なんだか空が余計目映く見える。
東京の空は今日もきれいです。




ぼくたちの銀河鉄道
(彦星さん乙姫さん、今日はわたしの誕生日なので、少しだけ贔屓して下さいね。)



Happy Birthday dear Hime!!
2012.07.07




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………(´・ω・`)
メイン用に書いたものですが、あんまりにもアレなので没。屑箱にて御披露目です。
ヒメコだいすきだよ!!!












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