遡道 /




時かけパロっぽいけど
時かけの設定を完全無視した
ボスヒメっぽいもの
唐突に始まります







高校一年の六月。その男は転校してきた。妙な時季にやってくるものだなと思ったけれど、それ以上の興味は大して湧かなかった。ただ、重力に逆らって跳ねた黒髪と猫のようなつり目が印象的で、確と記憶に焼き付いていた。
それが、どうして。
夏が過ぎ去ろうとしていたそのさなか、目付きが悪いと絡まれていた彼を偶然見つけて、流れで助けてしまった。ありがと、悪かったな――そう言って笑った彼があまりにも情けなくて、けれど優しくて可愛くて、自分も思わず微笑ってしまった。

秋が来て冬が来て春も過ぎ去ったこの夏、転校生の藤崎佑助はいつの間にか、わたしの中に深く深く入り込んでいた。新しく芽生えたこの感情に明確な名前をつけるのが怖くて、忌避するように、危惧するように、目を逸らしていた。
でも、どこかで漠然と信じていた。わたしたちはずっと友達でいられると、根拠も保障もなく、ただただ盲信のように信じ込んで――いたかったのかもしれない。



白球が舞う。しかしそれはフェンスを越えることなく、センターのグローブに収まった。あー……、と藤崎――ボッスンは残念そうな声を上げ、掴んでいた金網をゆっくりと離した。
グラウンドはあちこちから声や音が飛び交い、ともすれば混沌としたように感じられる。しかしその混沌は深いところに秩序があるようで、不快な気はしなかった。
「男子って、野球すきやなー」
手で団扇を作りながら、わたしは彼の後ろ姿を見つめる。その距離は遠いわけではなかったけれど、近いと言えるほどでもなかった。これが精一杯やな、と呆れ半分に思う。
ボッスンは少しの間、静止していたが、やがてゆっくりと振り返った。額には汗の玉が浮いている。その帽子を脱げば幾分か涼しくなるだろうにとも思うけれど、脱いでくれるなという思いの方が強い。だって、あれは、わたしがあげたものだ。
無かったからな、とボッスンが静かに微笑いながら言う。真っ赤な帽子に目を奪われていたわたしは夏の日差しに思考を奪われそうになりながら、へ? と間の抜けた返事をした。彼はリストバンドで額から伝う汗を拭い、再び口を開いた。
「俺がいたとこ、野球、無かったんだよ」
「……は? 何言うてん? ――え、野球部無かったとか、そうゆうこと?」
「違ぇよ、野球が無くなった世界なんだよ」
益々訳がわからなくて、わたしは首を傾げた。もしかしたら本当に日差しに思考能力を奪われたのかもしれないと思ったけれど、この場合、どう考えてもおかしいのはボッスンの発言の方だ。
汗が頬を伝う。それは火照った肌には冷たくて、けれどそれ以上に背筋が冷たい。厭やな、何も、考えたくない。
ボッスンはおもむろにリストバンドを外し、こちらに手首の内側を向けた。そこには痣のようなものが刻まれていて、「10」という並びに見えた。
「じゅう?」
「逆。ゼロイチ、だ」
「……何なん、その、数字」
「何つーか……まあ、俺が飛べる回数、だな」
「飛ぶ、て……」
「だから飛ぶんだよ、時間を。――基本的には、遡る為に使ってた」
不可思議な痣が、リストバンドによって隠される。覆われた数字は未だわたしの目に焼き付いて、離れない。
飛んできたんだ、とボッスンは繰り返す。

「俺は、未来から来たんだ」

アブラゼミの声がうるさい。頭が割れそうだ。
ぼんやりと霞んでいく思考の隅で、どうして、と愚痴のように呟く。だって、ずっと、一緒に居れるて思うてたのに――この告白はまるで、一生の別れ、みたいやないか。
かきん、と金属バットが音を立てる。白球が飛んで、太陽の光に紛れた。




逆光の白さ
(永遠なんてどこにもないよ。あるとしたら、わたしの妄想の中だけだ。)






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夏になると、時かけ熱がぶわっと再燃します。これ全然パロディーになってないけど\(^o^)/申し訳ありません
意外と長くなったので、小分けにup。











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