蠢動 /




笛吹と浅雛ss





日溜まりの中で佇む笛吹を見つけた浅雛は、はたと足を止めて目を細めた。緩い日差しを受ける彼の後頭部に視線を向けたまま薄らと口を開きかけ、逡巡した後、結局閉じる。話し掛けたところで何を話題としたら良いかわからないし、大体にして話し掛けるような間柄でもないような気がした。
何も言わず立ち去ろうと止めていた一歩を踏み出すと、浅雛菊乃か、という音声が不意に耳に届いた。その連続性のある音声は確かに自分の名前で、振り向けば笛吹と目が合った。
名前を呼ばれたのが意外で、浅雛は数度、瞬きをした。優しい風がそっと艶やかなポニーテイルを揺らし、甘い薫りを辺りに撒き散らす。
たった、数秒。それでも浅雛にとっては十二分に長い時間だった。異常なまでの濃度の"一瞬"が、心の底を湿らせる。
――声を掛けられる義理もない。そんな旨のことをようやく呟いた浅雛は、さっと目線を逸らした。それもそうだな、意味のありそうで意味のない音声の連続が、耳に届く。浅雛は軽く奥歯を噛み締めた。
交わらない平行線を辿っているようだ――素直でない自分を呪いながら、そう思った。




蠢いたのは
(言葉に出来ないのは、僕の方。)





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(完全に個人的な)眼鏡強化月間第一弾













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