天道 /





椿雛ss




「日が長くなったな」
帰り道。まだ微かな明るさを残す空を見上げるようにそう言った椿に、ああと浅雛は低い声音で同意する。軽く不機嫌さが滲むその声に、椿ははて、と首を傾げた。
僕は、何かやらかしただろうか。しかし記憶を今朝まで遡ってみても、そんな覚えには行き当たらない。
地面には、二人分の影が薄く映し出されている。進む先に伸びたその影を、浅雛はローファーの踵で踏んだ。一歩二歩三歩。重なった影を思い切り踏みにじっているようにも見える。
その様子を見ていた椿は、訝しげに眉をひそめた。
「……浅雛、きみ、さっきから僕の影を踏んでいないか?」
「別に。椿くん本人にあたるのはあまりに理不尽だと思ったから、椿くんの影を踏んでみただけだ」
「僕の影にあたるのも、結構理不尽だと思うぞ!?」
僕が何かしたなら謝る、と言われ、彼女は無言で俯いた。マフラーに顎の先を埋め、言葉を探すように眉間に皺を寄せる。
辛抱強く椿が待っていると、彼女はやがて白い吐息とともに、今日、と声を漏らした。
「椿くん、告白されていただろう」
「え、―――いや、しかしあれはちゃんと断って、」
「わかっている。……だから、理不尽だと言っただろう」
ふるりと冷風が黒く艶やかなポニーテイルを揺らす。それに合わせて細かな光が舞ったように見えて、椿は目を細めた。
「そ、れは……もしかして、ヤキモチというものか?」
「うるさいっ」
足を速めた浅雛を追いかけ、椿は小走り気味に彼女の隣に並んだ。頬を赤らめた浅雛の横顔に笑みを溢し、そっと冷たい手を取る。
浅雛は再び顔をしかめたが、DOSと小さく呟き彼の手を強く握り返した。繋がった影が、夜の浅い闇に融けていった。




Days Eye
(だいすきと告げられるような女の子に、すぐにはなれないけど、)





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2月17日の椿雛の日に何か上げられたらと思っていたのですが……結局こんなに遅れましたスミマセンっ。


ベタベタ過ぎて恥ずかしい。











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