漆瞳 /




椿雛ss




地面が薄ら雪を纏っていた。水を多く含んだ雪ではなく、もっと柔らかな、そして儚いものだった。粉雪とも少し違う。これは何と表現すれば良いのだろうか、今の浅雛の語彙では表せそうになかった。

珍しいな、積もったのか。

空を見上げながら、椿が言う。彼のその薄い唇から漏れ出た吐息を、浅雛はじっと見つめた。凛とした空気を漂う吐息はか細く、すぐに宙に溶け込んでしまう。
彼の息も、地面も、雪が舞う宙もすべてが白くて、そのあまりに美しい光景に、少しだけ――そう、本当に少しだけ、怖くなる。すぐに他の色に染まるくせにこの世を覆い尽くすような白は、胸の中の黒い部分をひどく克明に浮かび上がらせるのだ。
天を仰ぐ椿の外套の裾を、指先で軽く引く。彼は驚いたように浅雛を見つめ、けれどやがて柔らかく微笑って彼女のその手を握った。指先が冷えきっているのなどお互い様だったのに彼は、浅雛の手は冷たいな、手が冷たい者は心が温かいという話は本当かもしれないな、と言って照れたように眉を下げた。
その表情はどこか真っ白な雪と似ていて、浅雛はやはり胸中に在る黒い部分を知ることとなるのだった。



漆瞳に映る白い闇
(わたしは、貴方が綺麗すぎるが故に、時々怖くなる。)





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人様の椿雛が素敵すぎて、それに影響されて書いてみたけれど、結果、こんなんでした。
ぬーん(´`)










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