同寮 /



大学の寮設定で
藤鬼
(完全にパラレル)

※設定ちょっと注意




洗濯物の篭を抱えて寮に備え付けられたコインランドリーに行くと、中央に置かれたベンチの上で寝そべりながら、漫画雑誌を読んでいる男子学生がいた。藤崎佑助、と確か入寮式の時に言っていた。特徴的な癖毛の、猫目の男だ。
「おーす」
漫画から顔を上げて、藤崎が声を掛けてくる。おぉ、とわたしは短く返して、乾燥機の蓋を開けた。
「……」
何やら気になって藤崎の方に目を向ければ、やはり彼はこちらに視線を注いだままだった。わたしは両腕に篭を抱えたまま、目を細める。
「何や」
「へ?」
「へ、違うわ!! 女の子が洗濯物持ってんねんぞ!? 目ェ逸らさんかい!!」
「スミマセンっ」
慌てて上体を起こし背を向けた藤崎を横目で確かめて、わたしは息を吐きながら、篭を逆さまにして乾燥機に洗濯物を流し込んだ。だから嫌やってん、男子と共同のコインランドリーなんて。
冬は洗濯物が乾きづらいから、憂鬱だ。インナーも下着も、生乾きで着ることになってしまう。せっかくコインランドリーがあっても、男子寮のやつらと共同使用なんて。
舐めてる。学生を舐めてる。
小銭を入れてスイッチを押すと、ごうんごうんと機械が動き出す。わたしの立つ床まで震動が伝わってきて、じっと乾燥機の中を覗いていると、一緒に回っている気分になってくる。ごうんごうん。わたしの中に溜まったじめじめとした思いも、こうして機械的に規則的に30分間回っていたら乾いてくれるだろうか。渇いてしまうのだろうか。

「なぁー、おまえ、鬼塚だよな」
ぼうっとしていたら、不意に声を掛けられた。振り向けば、藤崎は未だベンチに腰掛けたまま、膝の上の漫画に目を落としている。
「……だったら何や?」
「何、って聞かれたら困るけどよ。何、おまえ、経済だっけ?」
「文学部や」
「文学部!? 似合わねー!!」
「似合わんて……あんた、アタシのことよぉ知らんやん」
「何となくわかるじゃん」
「いやいやいや、アタシはあんた見ても、変な頭やな、くらいしかわかれへんで」
「うっせー!!」
ぴょこんと跳ねた髪先を指で弄りながら、藤崎は顔をしかめる。
その仕種にちょっとだけ笑いながら、あんたは? と訊ねると、教育という短い答えが返ってきた。
「教育ぅ? あんたこそ似合ってへんやん。センセーになる気か、その頭で。あんた絶対虐められんで?」
「頭関係ねぇだろ!!」
コインランドリーという空間は、機械の熱によってそこそこ温かい。ぬくい、と言った方がより適切だろうか。
しかしそれ以上に何だかお腹の底が暖かくて、ぽかぽかした日溜まりのような柔らかい熱がゆっくりと身体に拡がる。何でやろ、相手、男やのに。
話す内容はこの上ないほど下らなくて幼稚で、それなのに楽しい。楽しくて、心が晴れていくようだ。乾くでも渇くでもなく、蜂蜜のように優しい陽射しの中に居るような。
笑う、ということをこんなにも自然に出来るなんて。

気が付くと、乾燥機は止まっていた。足下を揺らす震動はもちろんもう無くて、静かな空間には申し訳程度の温風が暖房器具から吐き出されている。
「俺もだ」
と思い出したように藤崎は乾燥機を開け、少なくはない洗濯物を両腕に掻き寄せた。夏物らしきTシャツやハーフパンツも見受けられるが、いつの洗濯物だろうか。訊くのも憚られた。
じゃ、と洗濯物に半分顔を隠された藤崎が言う。
「おまえもたまには、食堂で飯食えよ。面白ぇやつ、いっぱいいるぜ?」
「……考えとくわ」
「おぉ」
藤崎は笑い(目元しか見えなかったけれど、確かに笑っていた)、コインランドリーから出ていった。よたよたと歩く後ろ姿は滑稽で、わたしはまた少し笑った。


男は嫌いだ。平気で女を傷つける。無理やり破られた処女膜が、今も惜しい。夢に見て吐き気をもよおすほど、暗くてしかし忘れがたい記憶だ。
男なんて、嫌いだ。
けれど。
藤崎の顔を思い出し、わたしは一人、息を止めた。いつもより濃いような血液が、耳元で心音を揺らしている。
男子寮と女子寮と言っても、長い渡り廊下やこのコインランドリーのような共同施設でで仕切られているだけで、結局は同じ屋根の下だ。近くにまだ藤崎がいると思うだけで、わたしのお腹はまたぽかぽかと暖かくなった。
それが何なのか、わたしは知らない。

「今日はモモカ誘って、食堂行ったろか」

乾燥機の蓋を開くと、あたたかい空気がわたしを包んだ。




日溜まりにて陥落
(ひとつ屋根の下、恋を始めようか。)






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これ別に同寮設定の必要はないな。←












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