動悸 /




ボスヒメss




自分がハサミを持つとろくなことがない、なんてこと解っていたはずなのに、実際手にしてみると、なんとなく出来る気がしてしまう。アタシこんなん得意やし――とか思ってしまうのだ。
鏡に向かって座り、前髪をちょいと持ってハサミの刃を入れる。ざくり。金色の髪の毛が、拡げたティッシュペーパーの上にはらはらと落ちた。
「―――ああっ!!!」
鏡に映る自分を見て、愕然とする。嘘やん嘘やん嘘やん、誰やこれ、前髪短っ!!
横一列に長さが揃ってしまった前髪の端を摘まんでぐいぐい引っ張ってみるけれど、当然のことながら髪はそんなんで伸びたりしない。頭皮が痛いだけだ。
似合うてんのかな、いや似合うてへんわ。
どないしよ、と鏡の前で溜め息を転がしていると、部室の扉ががらりと開けられた。うーす、と緩い声で入ってきたのは、ボッスンだった。
「あ、」
「あ?」
ボッスンはわたしの方を見て、怪訝そうに眉をひそめた。そしてじー、と人の顔を暫く見つめてから、瞬きを数度繰り返す。
「何や」
「……いや、何も」
「何もないことないやろ」
「何もねーって」
「笑い堪えてるんと違うの」
「いやいやいや、」
「笑えやっ!!」
「なんで!?」
わたしはボッスンの視線から逃れ、鏡に向き直る。前髪に触れて長さを再度確認し、変わってないことがわかるとまた溜め息が零れた。
そんなわたしに向かって、
「別にいいじゃん」
とボッスンが事も無げに言う。
いいことあるかい、とわたしはおもいっきり顔をしかめてボッスンを見た。しかし彼はそんなこと気にも留めず、わたしの前髪に触れて、いいじゃん、と微笑う。
可愛い、でも、似合ってる、でもないのにその言葉が妙にすとんと胸に落ちて、わたしは少し俯いた。耳の端が熱い。
「俺はいいと思うぜ?」
「……どぉも」
ああもうほんとこいつは――触れられた前髪からこの鼓動が伝わらなければええなと、わたしは祈るばかりだった。




君の一言でこんなにもどきどきしてしまう











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