憧憬 /




宇佐美と加藤ss
(藤←宇、加→鬼)





雪が降っていた。灰色の雲に覆われた空はぼろぼろと雪を零し、世界を白に染め上げる。
宇佐美は、そんな冬景色の中に立っていた。ぴんと立ったウサギの耳のようなリボンが付いたカチューシャは、集中烽火でも浴びたかのように真っ白に染まっていた。吐息がこれまた白くて、そんな中に立っている彼女はいかにも儚げで、消えてしまいそうだった。
話しかけてもどうせまともに会話など出来ないだろう、無駄だ、と思ってしまうのは、俺に問題があるのか、彼女に問題があるのか。
とにかく無視して通り過ぎようと、緩い歩調のまま横を通ると、ぽつりと零れた小さな声が聞こえた。雪が音を吸い込んでしまうからだろうか、いつもより、その声はか細くて。
思わず、あん? と彼女の方を振り向いてしまった。

「どうしてあの人は、わたしのことを放っておいてくれないのかしら」

宇佐美は剥き出しの手に握られたカフェオレをぎゅ、と抱きしめていた。真っ赤になった手は、そのカフェオレによってどうにか消えないで済んでいるようにも見えた。(気のせいだということは、百も承知だ)
「……知るか」
俺は止めてしまっていた足を、再び動かした。靴が水分を吸って、重くなっていた。
あの人って誰だ、とふと思ったが、すぐに思いついて憂鬱になった。馬鹿げた赤いキャップ――アイツだとするならば、恨み言を漏らしたくなるのも解る。一生、手に入れることが出来ないであろう奴だ。
どうして放っておいてくれないのか。
揺れる金髪を思い出しながら、確かにそんなことを言いたくなる奴らだなと思った。
吐息は、凍えた外気に呑まれていった。




絶望にも似た憧憬
(触れたと思えばすぐに離れていく。)





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藤←宇が読みたいとりあたいで騒ぎましたが、とりあえず自分で書いてみました。
よく分からなくなってしまった、反省。

タイトルに縛りを設けているので、「憧憬」の正しい読みは「しょうけい」だろという突っ込みは自分の心の中にしまっておきたいと思います。ここでは「どうけい」です。










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