消化作業09 /





ボス←ヒメ没文
多分高三






たとえば綺麗な格好をして優しく微笑んでちょっとだけ首を傾げて。そうしたら彼が何と言うかを考えてみるけれど多分、いや絶対、わたしに対して「かわいい」とかそういった類いの台詞を口にはしないのだろう。別に今さら期待なんかしていないし、ああ、うん、そう、傍に居られるだけでなんやしあわせ、だったりするからべつに構いはしないけれど。



呆けたようなボッスンの視線を受けて、わたしは少しだけ眉をひそめる。何なん、その顔。声に出さず表情でそう訴えていると、近くに居たスイッチが唐突にぱん、と派手に手を打った。
「いやぁ、似合うなヒメコ!」
表情を変えずに言うスイッチは、それが本気なのかどうか判別しづらい時がある。わたしは眉間の皺を解いてはぁ、どうも、と間の抜けた返事をして自分の格好を改めて見下ろした。
白い襟の付いた、全体にプリーツが寄ったノースリーブのワンピース。モノトーンの配色で、膝よりも上に裾があって何だか心もとない。コルクウェッジの、ヒールの高いサンダルを履けば尚更心もとなさは増して、先ほどステージに立っていた時もずっとふわふわした不安が付いてまわっていた。結われた髪の毛も、慣れないせいか何度も触れて確かめてしまう。
夏休み。どうしてもと頼まれて出た手芸部主催のファッションショーは、近隣の高校がいくつか集まってオリジナルの服を審査する、結構大規模なものだった。モデルが終わって服ももらい、解放された気分で帰ろうとしたところ、どこから聞きつけたのか、会場の外でスイッチと、それからボッスンが待っていた。建物の日陰になっているところで、汗までかいて女の子たちが帰っていくのを居心地悪そうに見ながら立つ姿は滑稽で、何してんと呆れそうになりながらも笑えた。慣れない格好に苦労しながら彼らに近付くと、ボッスンはゆっくりとこちらを見て、それからぎょっ、と固まってしまった。
似合うなヒメコ、と言ったスイッチは固まったままのボッスンの方を向いてなぁボッスン、と同意を促す。ボッスンはそこでようやく久し振りの瞬きをしてわたしを上から下まで見て、照れたような顔で薄く唇を開くものだから何だか先ほどのステージよりも緊張してきて汗を握り締め、その先の言葉を呼吸も忘れて待った。あぁ、と掠れた声で彼は言ってそれから、僅かに視線をずらしてまた口を開いた。
「んっんー、だから、……その、馬子にも衣装、だな」
「――ああん!?」
「怒るなヒメコ。馬子というのは取るに足りない者という意味だぞ」
「うっさい知っとるわハゲぇ! そしてそれは何のフォローにもなってへんわ!」
「俺、昔、孫だと思ってたわー」
「その間違いは結構多いと思うぞ」
「おまえら褒める気ないやろ!」
ああもう緊張しとった自分が阿呆みたいや、期待なんかしてへんくせに。息を吐いて踵を返し、もう先に行こうとしたら急にぐら、と視界がぶれた。あ、とだけ漏れた声が不恰好に空気を振動させて、あかん足挫いたと気付いて転ぶのを覚悟した時、肩の辺りを掴まれわたしはその場に留まった。え、と振り向いてみると支えてくれていたのは意外と言うかやはりと言うか、助けた方も何やら驚いた顔をしていたけれど、ボッスン、だった。
一瞬、空気が止まったかと思った。でもそれは違って、多分、わたし自身がこの一瞬が止まることを望んでいただけ、なのだと思う。
もう転びそうにないことを確かめてからそっと手を離し、ボッスンは息を吐いた。
「あぶねーな、せっかくかわいいカッコしてんだから、気を付けろよな」
「―――っ、」
その行動にも言葉にも、他意がないことを知っている。だけど、だけれどたまに、そういった言動に痛いほど熱がわいて胸が詰まりそうになって、そうしてどうしようもなくすき、が溢れそうになって唇が震える。それでも言ったら何か全部が終わってしまう気がしてただ、ありがとう、とだけ小さく告げた。
別に今さら期待なんかしていないし、ああ、うん、そう、傍に居られるだけでなんやしあわせ、だったりするからべつに構いはしない―――わかっている、全部そんなの嘘だって。だって触れられた部分がこんなにもあつくて、揺らいだ鼓動はおさまらない。
日差しを吸い込んだアスファルトがあつくて、そうか夏は始まっていたのかと、遅れて気付いた。



真夏日の三分後
(思考がゆっくり融けていく。)





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BGM:藤原さくら「かわいい」
















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