同定 /




高三時スイッチss
ややスイモモ




やや盛り上がりに欠けた紅白も終わり、いつもより遅い夜、どこからか除夜の鐘の音が聞こえてきた。今年も終わりに近づいて、同時に来年の始まりも近づく。ひたひたという来年の足音が聞こえた気がして思わず辺りを見回すと、窓の外で雪がちらついているのが見えた。道理で、寒い。
108の煩悩を、鐘の音が一つひとつ消していく。台所から流れてくる年越し蕎麦の出汁のにおいに腹がぐぅ、と鳴いたため、どうやら食欲はまだ消えていないらしい(もしくは108の煩悩の中には食欲が含まれていないのかもしれない)。非科学的なことを考えていると少しだけ笑えて、なんだ、俺もそんなことを考えられるのかと思った。
ソファーから立ち上がって伸びを一つ、そうして固まった身体を解している際ふと思い立って、窓の近くに寄ってみた。ちらちら舞う雪に目を細める。こつん、と窓に額を当てるとひやりと冷たくて、肩の先が震えた。そう言えば今年の正月は――喪中、だったな。目の端に染みた生温い液体が、外気で少しずつ冷えていく。
108の煩悩が消えていく――そんなわけない。何故ならば俺はまだこんなにも、訳のわからない感情に振り回されているのだから。
ふと思い出したのは、彼女の顔で。今すぐに会いたい気がしたけれど、今会うのは怖くもあった。そろそろこの気持ちに名前を付けても良いのだろうが、除夜の鐘の前でそうすると、煩悩として消えてしまいそうで出来なかった。
流れていく時の中、何かを改めるように年が明ける。どこかで小さな花火が上がった。それと同時に呼び出し音が鳴ったケータイのディスプレイを見て、俺は微笑と涙を同時に浮かべた。

「もしもし? ――ああ。明けまして、おめでとう」

今はまだ、名前もないまま。




同定は求めない
(それは雪のように儚いものではないけれど、)





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20131231













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