光道 /




ボス←ヒメss
最終回後



丸くて大きな月だった。零れるような光が幾重にも折り重なって、夜空に乳白色の同心円が拡がっている。わぁ、と漏れた間抜けな声が仲秋の夜に吸い込まれた。
デパートの屋上は既に人の気配が薄くなり、灯りが消えている。呑み込まれるような光を身に受けていると急にこの場に一人という事実が心の中に陰を差して、わたしは慌ててバッグの中からケータイを取り出した。カメラ機能を立ち上げて、大きな光にレンズを向ける。
機械的な音を鳴らしたケータイに納めた光の輪を、メールに乗せて彼に届ける。遠いなぁ、月を見ながら呟いた。彼が居る場所も、月の在る場所も、今のわたしにとっては大差ない。
すぐにケータイは鳴った。下らねーこと送るなとか言われたら、と今更ながら思ったけれど、文面には「すげーな、キレーだな!」と彼の笑顔まで浮かぶ、短いが無邪気な返事が綴られていた。――そやった、こういう男、やった。
あぁ、痛い。切なさが、痛い。
遠い、そのこと自体も痛かったが、あんなに単純な彼のことが解らなくなっていることがより切なかった。過去形でしか言えないことが、切なくて痛かった。
同じものを、隣で見たかった。メール画面に向けて少しだけワガママを呟いてから、目尻を拭う。柔らかい光が優しすぎるから、多分ちょっと弱くなっているだけ。きっと、それだけ。
腕を伸ばして光を掴む。ボッスンの笑顔を留めながら、わたしは微笑った。




月影の海
(彼の笑顔を、遠い月に願った。)





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この前、仲秋の名月だったんで。












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