秋海棠 /




ボス←ヒメss




歩道と車道の間、少し盛り上がった縁石の上をポケットに手を突っ込んだまま歩く。その数十センチ前を行くヒメコは両腕を広げてそろそろと足を動かしていた。運動神経が良いのだから別に落ちることもないだろうに、しかし彼女はゆっくりゆっくり進む。
小さな背中は秋の濃い夕暮れに染められて、歩道には長い影が伸びている。なぁヒメコ。呼ぶと、彼女は立ち止まってから目線だけをこちらに向けた。
「何?」
「もうちょい速く行けよ」
「ええやん。はよ行ったら落ちるかもしれへんし」
「落ちてもいいだろ、別に」
「あかんあかん、ほら、えーと、あれや、落ちたらあんた、鮫に食われんで?」
「何そのルール!?」
「通学路を血と肉で染めたいんか?」
「グロいな!!」
ヒメコは顔をしかめた俺を数秒、無言で見た。眉間に寄せた皺は何かを言いたげではあったけれども、結局その「何か」が言葉となって現れることはなかった。
彼女は相変わらず、ゆっくりゆっくり進んでいく。早足になった秋の夕暮れは今すぐにでも夜を連れてきそうだったが、それでもヒメコの足取りに変化はない。早く速くと距離を詰めてせっつくと、振り向いたヒメコは不機嫌そうに唇を尖らせた。
「せやかて、少しでも長――あ、」
「あん? 長く、何?」
「いや、――いや違う、何もあらへん!!」
「痛っ!! ――あ、」
殴られた拍子に、縁石から足が落ちる。ぺたんと歩道を踏んだ足を見て、鮫に食われたと呟けば、何言うてんとヒメコが首を傾げた。
「いやいや、おまえが決めたルールだろうが」
「え? あ、ああ、血と肉が、」
「いやもうそれはいいっつの」
あーもう、とヒメコの手を取って彼女も歩道に下ろす。握られた手を見て彼女は目を丸くしたが(何をそんな驚いたんだ?)、俺は構わず引っ張って歩いた。
「ちょ、ちょお、ボッスン、」
「いいから速く歩けって。日、暮れるだろ。いくらおまえでも、一人になったら危ないだろ」
一応オンナなんだからと笑いながら振り向けば、顔を俯けたヒメコに背中を殴られた。何もわかってへんくせに、と濁した言葉に微かな笑いを含んでいたから、そんなに怒ってはいないのだと思う。多分。
握った彼女の掌があつい。けれども自分の手もいつもより温度が高い気がする。何なんだろうな、速めた足の先を見ながら考える。
「何もわかってへんくせに」
もう一度ヒメコが言う。じゃあ教えてくれよと、言えれば良かったのだけれど。
夜が昇る。どこからか吹いてきた風に、秋が薫った。




優しい寂寥
(感傷的な想いが蠢くのは、秋だからなのでしょうか。)




20130917


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いつもお世話になっている某様へ。お誕生日おめでとうございます!!
9/17の誕生花の一つ、シュウカイドウの花言葉が「片思い、恋の悩み」とかだったのでそんなイメージから作った話でしたが、結果こんなんですみませんorz
素敵な一年となりますように!
らぶ\(^o^)/











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