面倒 /




藤崎と笛吹と武光
ボーイズ・トーク




「ボッスン殿はヒメコ殿のことが好きなのかと思っていたでござる」
部室でアップルパイにフォークを立ててそう言った振蔵の口を、スイッチが慌てて塞いだ。慌てすぎたのか勢いが良すぎたのか、掌全体で顔を覆ったその動作はただ単に口を塞ぐ、と言うよりもプロレスの技みたいで、振蔵はソファに倒れ込んだ。痛い痛い、とくぐもった声がソファの上で転がる。
あつい紅茶をすすっていた俺はその光景を暫く眺めた後でカップから口を離し、俺が、ヒメコを? と噛み砕くように発音した。俺が、ヒメコを? もう一度呟くとようやく振蔵から手を引いたスイッチがこちらに目を向け、やや躊躇ってからまぁそういう見方もあるな、と言った。
「すき?」
実際に声に出してみると言葉の端々から輪郭を成していくようで、なるほど、そういう見方もあるのかもしれないと思えてくる。いや、でもな、
「俺は、皆のこと、すきだぜ?」
スイッチも、上体を起こした振蔵も、数秒間ぽかんとした顔をしていたがやがて、呆れたように息を吐き出した。長い溜め息だった。この期に及んで君はバカかとスイッチが言ったが、その後、まぁいつか自然に気付くかなとソファに深く腰掛けた。自然に気付くなら、それが一番いい、と。
「はあ? 何だよおまえら」
「ボッスン殿は、青春を棒に振っている気がするでござる」
「おまえに言われたかねーよ、エセ侍!」
見た目の崩れたアップルパイに、憮然とフォークを刺す。さっくりといい音を立てて、生地が切れた。
ヒメコ手製のその菓子は、甘くて、酸っぱかった。










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それでも気付かないボッスンに苛々しつつも見守るスイッチ、という構図がすきです。










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テーマ「人外ファンタジー」
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