夢を諦めるタイミングがわからない。

ぽつりとそう溢した藤崎は、カフェオレの入った紙コップを静かにデスクに置いた。薄い膜のように、湯気が立ち上っている。甘いかおりがこちらまで届いてきた。
諦めきれへんのなら、叶えればええのに。
そう言いかけて、結局何も言葉にできなかったのは、わたしが弱かったからだろうか。あんなにも甘そうな飲み物を口にしたくせに、苦みを奥歯に残したように眉を顰めて薄らと口元に寂しげな笑みを浮かべる彼を前にしたら、だって、何も言えないじゃないか。こどもが、なんて言われたら、それこそわたしは何も返せなくなってしまう。
油絵具で汚れた彼の白衣を見ながら、わたしは黙って目を伏せた。今も尚引きずっている彼の夢とは一体何なのか、わたしが知ることは、一生ないのだろう。


2012/09/11 12:20



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