「ふぅ……」

 廊下を歩く足取りが重い。部活が嫌いなわけでも、テニスが嫌いになったわけでもない。ただ──自分は、このままでいいのか不安なんだ。

 同学年の日吉や樺地の成長が右肩上がりなのに対し、自分は平行線を辿ったまま。今、レギュラーでいられるのも宍戸さんという頼もしいパートナーがいるおかげだと思う。宍戸さんが引退したら、自分一人でやっていけるのか。

 短いため息を吐き、足を止めた。見上げれば、【音楽室】と書かれたプレートが目に入った。悩んだとき、落ち込んだときは必ずここに来るようにしている。【息抜き】がこの先で待っている。扉を開け、中へ進んでいく。昼休みの音楽室は誰もいない。

 目を引く漆黒の塊が室内で存在感を放っていた。真っ直ぐ、その元へ向かう。椅子に腰掛け、蓋を開ければ、白と黒の鍵盤が出迎えた。好きな【ド】の音を指で弾(はじ)く。

 何の気なしに左側に設置された黒板を見ると、予め印刷されている五線譜の他にト音記号と音符が連ねられていた。前の授業で使ったまま、消し忘れたのかもしれない。

 黒板の譜面をピアノでなぞっていく。明るい曲。けれど、聴き覚えのないメロディ。一小節弾き終えたところで譜面は途切れていた。この曲は、どんな結末を迎えるのだろう。中途半端な曲。続きの気になる曲。見えない【先】に期待している自分がいた。──どこか、この曲と自分の姿が重なって見えた。



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