「一緒にピアノを始めた幼なじみがいるんだ。彼も才能のある子でね。よく二人で連弾していたよ。でも、コンクールで優勝できるのは一人だけ。結果は言わずもがな分かるだろう?」
「はい……」
優勝したのは幼なじみの彼ではなく、佐倉さんだった。
「それからだよ。彼があの子に敵意を向け始めたのは。──今回、あの子が参加するコンクールに彼もエントリーしたそうだ。【ソロ】部門でね。昨日彼がここに来て、あの子に告げた。『俺はお前を倒すためだけに必死でピアノを弾いてきたのに……【連弾】だって? 笑わせるな! お前にピアノを弾く資格はない!!』ってさ」
「そんなの彼の問題じゃないですか! 佐倉さんが悪いわけじゃない!!」
呆気に取られている田宮さんを見て我に返った。何をむきになっているのだろう……。「すみません!」と慌てて謝罪した。
「いや、俺の方こそ悪かったね。君は、そこまで……」
「……俺も佐倉さんの音を聴いたときはショックでした。どんなに練習しても彼女の音には追いつけない、って……。でも、同時に彼女の音を好きになりました」
「そうか……。だから、あの子は君と連弾したのかもしれない。──いつかの彼の面影を君に見たんだろう」
「あの! ちょっと、ピアノ借ります! この曲、知りませんか?」
近くに置いてあった試し弾きが出来る電子ピアノを借りて、佐倉さんが作った曲を弾いた。──田宮さんなら、この曲のことも知っているかもしれない。確信はないけど、そんな気がした。
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