「鳳。エントリーしちまった以上、お前には野嶋と出てもらう。そのつもりで、調整していけ。くれぐれも、佐倉のことは追うな。いいな?」

 「はい」と返すも内心では納得できるはずもない。参加を取り止めたことがどうしても彼女の本心とは思えなくて。彼女は参加に前向きではなかったかもしれない。それでも一緒に曲を選ぼうとしてくれた。弾きたい曲を探す、とも言ってくれた。そんな彼女が参加をやめると決断した。背景にある【何か】を知りたい。

 俺は彼女に言った。
──参加するなら、君と参加したい。
 今もその言葉に変わりはない。

 「あのっ!」歩き出した跡部さんを呼び止めた。「俺の話、聞いてなかったのか?」不機嫌な顔で彼に言われるだろう。もしかしたら、それ以上に罵声が飛んでくるかもしれない。それでも俺は意を決して跡部さんに伝えた。

「俺、参加するなら佐倉さんと参加したいです! わがままを言っているのは分かっています! でも……彼女と一緒に参加したいんです!」
「……それがお前の意思か?」
「はい」

 しばし重なった視線。ふっと強張った表情を跡部さんは緩めた。

「テニスでも、そのくらい意思を全面に出せ」
「……え?」

 怒られると思っていたから、拍子抜けな声が出てしまった。それを跡部さんは見抜いていた。

「意思の強い奴は嫌いじゃねぇ。お前に時間をやる。それでも説得できなかったときは──分かってるな? 俺様をガッカリさせるんじゃねーぞ」
「はい! ありがとうございます!!」
「バーカ。礼は、佐倉が戻ってきてから言いやがれ!」
「はい!」

 跡部さんには一生かかっても敵わない気がする。遠ざかる跡部さんの背中が見えなくなるまで、頭を下げ続けた。
 

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