今日の部活は予定より早く終わった。というのも、真っ黒な雲に覆われた空から大粒の雨が降り注いだ。それに加え、ゴロゴロと雷鳴が辺りに地響きをもたらし、練習どころではなくなってしまった。

 雷鳴が遠ざかってから帰宅となり、今日は宍戸さんとは帰らず、佐倉さんと約束した田宮楽器店に向かった。雨に濡れた町を色とりどりの傘が行き交う。楽器店がある商店街は駅の近くで、いつも人で賑わっている。

 田宮楽器店の看板が見えてきた。店まで50mあるかないかまで近づいたとき、店内から見覚えのある姿が傘も持たずに飛び出してきた。「佐倉さん!?」声を飛ばすも、降り続いている雨によって遮られる。彼女は全速力で雨の中を走っていってしまった。何かあったのは一目瞭然だ。急いで彼女の後を人混みを掻き分けながら追いかけた。

 どこまでも彼女は走っていく。足が速いのは知っていたが、なかなか追いつけない。やっと彼女の足が止まった。ずぶ濡れのまま、雨に打たれている。

「……鳳くん!?」
「風邪、引くよ?」

 濡れないよう傘を上からかざす。俺の顔を見た瞬間、彼女は泣き崩れた。一つ傘の下、寄りかかってきた彼女を抱き止めた。泣きじゃくる佐倉さんをどうすることもできず、ただ胸を貸すことしかできなかった。

 雨は強さを増し、彼女の泣き声も掻き消した。傘に当たった雨粒が奏でる音楽も今は切ない旋律に聞こえる。しばらく泣いていた佐倉さんだったが、寄りかかっている体に重みが増した。全身の力が抜けているような──雨に打たれて、具合が悪くなったのかもしれない。


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