演奏を終えたとき、拍手と一緒に跡部さんが室内に入ってきた。

「いい演奏だったぜ!」
「ありがとうございます」
「俺様の耳に狂いはなかったようだな!」
「……相変わらず、自信過剰ですね」
「佐倉さん!」
「だって、本当のことじゃない」

 跡部さんは佐倉さんを鼻で笑うと、視線を能嶋さんに移した。

「悪かったな。代役として呼んで」
「……ううん。この子、生意気だけど素敵な演奏家だと思う」
「あぁ。俺も同感だ」
「私も、もっと頑張らなくちゃ。才能はないけど、頼ってくれる仲間がいるから」
「今年の合唱部、期待してるぜ」
「ありがとう、跡部くん。それじゃ、またね」

 能嶋さんは明るく笑って振る舞っていたけど、内心ではショックだったと思う。俺も初めて佐倉さんの演奏を聴いた時はショックだったから。長年ピアノを弾いていると、演奏者の良しも悪しも音を聴けば分かるようになる。彼女が奏でる音は努力して得られるようなものじゃない。手首の柔らかさ、指のしなやかさ、指の稼働率、すべてが人並み以上。さらに、そこに彼女の感性が加えられる。


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