「なに? あなたには関係ないでしょ?」
「それがあるんだよね。──私も鳳くんと連弾する予定だから」
「え!?」

 自分よりも身長が高い能嶋さんを見上げながら、佐倉さんは平然と話していく。先輩だと気づいていないのか、気づいていながらも思ったことを話しているだけなのか……。二人の間で上がる火花の行方を俺はただ静観することしかできなかった。

「二人の演奏を聴いてて感じたけど、あなたの独壇場だったよ。ちゃんと鳳くんの音を聞きながら弾いてた? 鳳くんは何度もあなたに歩み寄ろうとしてたのに。それに気づかず、一人楽しんで弾いてるから、リズムが狂ったの。連弾は、二人で楽しむものだから。一人だけ楽しんでも、いい音楽は生まれない」
「偉そうに!! だったら、あなたが弾いてみなさいよ!!」

 申し訳なさそうな視線を俺に向けた佐倉さんに「お隣、どうぞ」と能嶋さんが空けてくれた席を勧めた。

「それじゃ、お言葉に甘えて……お邪魔します」
「おかえりなさい」
「……待たせてごめんね」
「首長くして待ってたよ」

 「ありがとう、鳳くん」そう言った彼女の頬は少しだけ赤く色づいていた。

「とっとと弾きなさい!!」

 能嶋さんに喝を入れられ、「それじゃ、よろしくね」「うん」挨拶を交わし、息を吸い込んで弾き始めた。一音目から彼女の放つ音は違った。伸びやかな音色(おんしょく)がメロディを奏でていく。それは、まさにピアノの歌声。

 能嶋さんも自分が奏でた音と彼女が奏でる音の違いに気づいたらしく、俺たちの指が生み出していく音楽に聴き入っていた。

 曲が明るく軽快なリズムに入ると互いの顔を横目で確かめながら、踊るように体を揺らし演奏した。彼女と奏でる音楽は最高に楽しい。鍵盤をふわりと舞う彼女の指は優雅なバレリーナそのもの。──美しい。この言葉しか当てはまらない。


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