「え!? 演奏会!? コンテスト!? 無理だよ!! そんな、急に言われても」

 案の定、彼女から飛び出したのは驚きと断りの言葉だった。必死で説得するも彼女の気持ちは揺るがない。

「私以外でもピアノ弾ける人はたくさんいるよ」
「……でも、出るなら俺は佐倉さんと出たい。【跡部さんに頼まれたから】じゃなくて、君と一緒に音を奏でたいんだ。他の誰かじゃなく、俺は君と──」

 目の前に立っている佐倉さんは真っ赤な顔をしていた。「あ……」つられて俺も顔が熱を帯びていく。

 何言ってるんだろう……。今のは、まるで──告白、じゃないか。

「……少しだけ考えさせて」
「あ、うん! エントリー、来週の金曜日までだから」
「分かった」

 お互い、ぎこちない笑みを交わして別れた。説得とは言え、あの言い方は誤解を生む。彼女の音が好きな気持ちが全面に出てしまった。

 一緒に奏でた音が忘れられない。二人の指が、息使いが、重なり合って生まれる音は最高以外の何ものでもない。きっと、それを彼女も分かってる。遠くなる彼女の背を見つめ、投げ掛けた。

──いい返事、期待してるからね。



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