佐倉さんに笑顔が戻ったとき、すごく嬉しかった。この間、自分のせいで彼女を傷つけてしまったから。笑顔を取り戻せて安心した。──でも、なんだろう。それだけじゃない気がする。

 彼女の笑顔を思い返しながら、鍵盤に手をかけた時。ふいに扉が開いた。

「鳳? さっきの演奏はお前か?」
「跡部さん!?」

 昼休みの音楽室で跡部さんに会うとは予想もしていなかった。校内での彼は生徒会長の仕事に追われ、休み時間は職員室・生徒会室、各委員の委員長がいる教室等を忙しく行き来している。こんな所で会うはずがないとさえ思っていた。

「だが、あの曲は連弾だったよな?」
「はい。さっきまで、同学年の佐倉さんと一緒でした」
「あー、佐倉 ことはか。……鳳。お前に頼みがある」
「はい。なんですか?」
「お前と佐倉、二人で演奏会に出席してほしい」
「演奏会、ですか?」
「あぁ。毎年、各校のピアノ奏者が参加するコンクールだ。ソロの部と男女連弾の部があるんだが、連弾のほうがまだ決まっていなくてな」
「ソロは誰が出るんですか?」
「決まってるじゃねーか。俺様だ! 三年連続優勝は決まったも同然だ!」
「……さすがです」

 そんなコンクールがあること自体、知らなかった。跡部さんのピアノの腕前はプロ級だ。彼に敵う人を見つけるのは難しいだろう。

「何としてでも、お前たちには演奏会に出てもらう。ソロ・連弾両方揃わねーと、エントリーが出来ない」
「つまり──」
「あぁ。俺様の三年連続優勝は、お前たちに懸かっている!!」
「責任重大ですね……」
「エントリー申し込み期間は、来週の金曜までだ」
「え!? 一週間もないじゃないですか!!」
「だから、こうして頼んでるんだろ!!」
「……わかりました。なんとか彼女を説得してみます」
「悪いな。よろしく頼む」

 とんでもないことに巻き込まれてしまった気がする。佐倉さん、承諾してくれるといいのだけど……。


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