「俺でよかったら、話聞くよ?」
「……ありがとう。でも──鳳くんには話せない」
「え?」
「だって、鳳くんは誰にでもやさしいんだもん」
「そんなこと──」
「ごめんね」

 切なそうに笑う佐倉さんに何も言えなかった。自分ではそう思っていないけど、よく周囲から【やさしい】と言われる。困っている人がいれば手を差し伸べるのは当然のこと。

「鳳くん、何か弾いてよ!」
「佐倉さんも一緒に弾こうよ! 久しぶりに連弾しよう! ねっ?」
「……分かった。曲は、ハンガリー舞曲第五番でいい?」
「うん」

 鍵盤に凸凹の手が乗る。大きさはもちろん、細さも全然違う。低いパートを俺が、高いパートを佐倉さんが担当する。別物同士の指が鍵盤を走り、一つの音楽を作り上げていく。

 不思議と彼女とは馬が合った。初めて連弾したときも息がピッタリ重なって、誰かと一緒に弾くことの楽しさを知った瞬間だった。今も、その感覚は変わらない。彼女の指の息づかいが音を通して聞こえてくる。久々に彼女の音を聞いて分かった。──俺は、彼女の奏でる音が好きだ。

 曲は佳境に入り、同時にフィニッシュを飾った。鍵盤から離れた指が膝に着地するタイミングまで綺麗に揃っていた。

「久々に連弾したけど、楽しいー!! 鳳くん、リード上手だから」
「そんなことないよ! 佐倉さんが歌うように弾くから、それに合わせて弾いてるだけだよ」

 夢のような時間だった。ずっと続けばいいのにと願ってしまうほど。

「また私と連弾してくれる?」
「もちろん! こちらこそ、また連弾してね」
「ありがとう、鳳くん」
「よかった。やっと笑ってくれた」
「え?」
「あ、いや……」
「変な鳳くん」

 微笑んだまま、彼女は席を立った。「またね」音楽室から去ろうとする佐倉さんに声を飛ばした。

「昼休みは、大抵ここに来るから! 佐倉さんも──」
「うん! 連弾したくなったら、お邪魔する」



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