佐倉さんが作った曲の続きを自分なりに考えてみたものの、思うように繋がらない。どうしても、彼女がどんな思いでこの曲を作ったのか気になってしまう。全体としては明るいけれど、並び変えると暗い曲にもなる。
クラシックにも出だしは明るい曲なのに、終わる頃には暗い曲に変わっているという曲も少なくない。彼女が作った曲は歌い手に向けたものではなく、歌詞のないピアノが歌う曲。だからこそ、どんなイメージで曲を作ったのか気になった。
「……鳳くん」
「佐倉さん!」
音楽室で一人悩んでいたところ、彼女がやって来た。あの日と同じく、浮かない顔をしている。
「曲作り、どう? 順調?」
「……正直言うと、全然うまくいってない」
「そっか……。隣、いい?」
「どうぞ」
近くにあった椅子に彼女は腰かけた。去年もよくこうやって、一緒に演奏したっけ……。懐かしい思い出を辿っていると、佐倉さんも「去年は、よく一緒に演奏したよね」と遠い目で鍵盤を見つめていた。
「最近は弾いてないの?」
「……たまに弾いてるよ。不思議だよねー。少し離れると、【弾きたい】って強く思うんだから」
「分かるなぁー。テニスで忙しいと、その分ピアノ弾きたくなるんだ」
「相変わらず、鳳くんはテニスにピアノに大忙しだね」
「うん。両方好きだからね」
「羨ましい」そう呟いた彼女の声は今にも消えてしまいそうだった。
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