花見酒/新門紅丸(炎炎ノ消防隊)
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「……花見酒も悪くねェ」

 夕方から始まった賑やかな花見の宴会も、夜の九時を過ぎた頃にはみんな夢見心地で御座(ござ)に寝転がり出した。

 酒に強いのか弱いのか……。普段なら絶対に見せない満面の笑みを浮かべ、新門大隊長は盃(さかずき)にお酒を注いでいく。自分のペースで楽しみたいからとお酌(しゃく)を嫌い、一人酒を決め込んでいる。

「お前も飲め」
「……飲めない体質なの知ってるくせに」
「こんな美味いもんが飲めないなんて勿体ねェ」
「私だって、みんなと盃を交わしたいですよ。でも……いいんです、お酒よりお団子を楽しみますから」

 薄ピンクの花びらを見上げた先に月が輝いていた。透過して見えるそれは神秘的で美しかった。

 本当は団子よりお酒を楽しみたかった。アルコールが合わない体質だから、飲めば命の危険もあると医者から止められている。

 みんなと酔いつぶれるほど、お酒を飲んで愉快に転げ回りたかった。盃を交わすことが仲間の証という原国式の習わしも私には不可能な話。

 「……ほらよ」私に一升瓶の日本酒を彼は突き出してきた。

「何ですか?」
「盃が交わせねェなら、代わりに酌すりゃあいいだろ」
「……いいんですか?」
「せっかくの花見だ。全員で楽しまなきゃ意味がねェ」
「……そういうところでしょうね」
「あ?」
「新門大隊長にみんながついて行きたくなるのは」

 彼が最強なのは、強いからだけじゃない。人を惹きつけるやさしさがあるからだ。

「てめェの目は節穴か? 全員酔いつぶれちまって、誰もついてきてねーじゃねェか!」
「……そういうズレてるところも含めて」
「あ? なんか、さっきから癇(しゃく)に障るな……」
「ささっ、気にせず! グイッと飲んでくださいな!」



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