入学したてのあの時、初めて声をかけてきたのは先輩だった。

「おぉ、お前、蛇を連れてるんだな!」

それまでも物珍しさで寄ってきた者は沢山いた。
しかし皆その蛇が毒を持っていることを知ると、怖がって逃げていった。
この人もそうなのだろう、毒を持つこの子を受け入れてくれる人なんていないのだろう、そう思っていた。

「この子は、蝮のジュンコです」
「ジュンコってことは女の子か!確かに、可愛らしい顔してるな」

今この人はなんて?
ジュンコのことを可愛らしいって?
怖がりもせずジュンコの顔を見つめるこの人が、不思議でならなかった。

「…先輩は、怖くないんですか?」
「毒蛇だからか?」
「だって、周りの皆は毒蛇だと知った途端に逃げ出してしまいましたから」
「でもさ、毒蛇だって、こっちから何もしなければ噛み付いたりしないだろ?」

な?ジュンコ?と言ってニカリと笑った。
その通りだった。
蛇たちは、危害を加えられない限り自ら攻撃に出たりはしない。
だからむやみに怖がることはないのだ。

「先輩は、よくご存知なんですね」

ジュンコのことを理解してくれる人に出会えたと、嬉しくて先輩に笑顔を向けたことを覚えている。

「まぁな!俺は生物委員だからな!」
「せいぶつ…いいん?」
「学園内で飼育してる生物の世話をする委員会だ。俺は楽しいと思うんだけど、中には危険な生物もいるからなかなかやりたがる奴がいなくてな」

先輩は、はは…と頬を掻いた。
だから人手不足なんだ、と付け足した。

「よかったらさ、生物委員会に入ること、考えてくれたら嬉しいなーなんて」

そうかこの人も生物に対する理解者を求めているのか。
先輩は皆が遠慮する生物の世話を楽しいと言った。
それだけで、僕には十分だった。

「あ、いや、無理強いはしないからな!他に入りたい委員会があったらそっちに…」
「僕、入ります」
「え?」
「生物委員会に、入ります。もう決めました」

先輩は始めこそ驚いた顔をしていたが、徐々に笑顔になって、満面の笑みを浮かべた。

「そうかそうか!うおおありがとな!!」

そして、先輩は僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。
突然の行為に一瞬驚いたが、先輩の手の感触は心地好くて、不思議と安心するものだった。

「あ、名前を聞いてなかったな!俺は三年ろ組の竹谷八左ヱ門だ」
「一年い組の伊賀崎孫兵です」
「孫兵か!よろしくな!ジュンコも!」
「よろしくお願いします」

太陽みたいな人だと思った。
薄暗い所で暮らす蛇や虫たちも、そんな生物たちが好きな僕のこともまとめて照らしてくれるような。


竹谷先輩が、僕にとってなくてはならない存在になるのは、もう少し後のことである。




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