死、別れ。
生物を飼育する者が必ず体験すること。
幼い頃から虫や爬虫類などの寿命の短い生物と接することの多い孫兵は、数え切れない程の死による別れを経験してきた。
どんなに小さな命に対しても、他人から見たら区別もつかないような群の中の一匹に対しても、その命の終わりに涙を流し、丹精込めて墓も作った。

生物たちと接する時間は孫兵にとって幸せな時間だった。
しかし、幸せであればあるほど別れは辛い。
特に愛情を注いでいるジュンコとの別れが訪れた時、一体自分はどうなってしまうのか、考えるのも怖かった。

蛇は虫より寿命が長い。
その分思い出も増え、別れが辛くなる。
だから蛇はおろか殆どの生物よりも寿命が長い人間には、なるべく執着しないようにしようと、孫兵は決めていた。
学園の生徒たちと友達にはなっても、親友にはなれなかった。



ある日、孫兵が死んだ虫の墓に手を合わせていると、誰かが近付いてきた。
そして孫兵の隣にしゃがみ込んだ。

「…竹谷先輩」
「よう。俺も、見送ってやっていいか」
「ええ、もちろんです」

八左ヱ門も孫兵と同じように手を合わせ、目を閉じた。
孫兵は八左ヱ門の顔をじっと見つめた。
自分の奥深くまで理解してくれる唯一の人。
孫兵は八左ヱ門のことが好きだったし、八左ヱ門も孫兵が好きだった。
孫兵の悲しみを八左ヱ門が共有してくれることで、孫兵の心も随分と軽くなっていた。
八左ヱ門といることが、当たり前だと思っていた。

「こんなに丁寧に埋葬してもらえて、こいつらも幸せだよ、きっと」
「そうだといいんですが」
「孫兵、俺が死んでもこんな風に送ってくれるか?」
「え…」

おそらく八左ヱ門は何気なく口にしたのだろう。
しかしその言葉は孫兵の昔の決意を思い起こさせた。

そうだ、自分は人間には執着しないと決めていたはずなのに。
いつの間にか、この人のことを心の底から好きになっていた。
楽しい思い出もたくさん作ってしまった、幸せな思いもたくさんしてしまった。
八左ヱ門は孫兵にとって既に離れ難い存在であった。
孫兵は、まだ大切な「人」を亡くしたことはない。
この人を亡くしてしまったら、悲しみに耐え切れる自信がない。
生きる意味を、見出だせそうになかった。

「…孫兵?」

黙りこくってしまった孫兵の顔を、八左ヱ門が覗き込む。

「……それは、無理です」
「え?」
「だって、…貴方が逝く時は…」













私も一緒についていきますから












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