ペコっと軽く頭を下げ、会長とすれ違う。
本当はこのまま、生徒会室へ菓子を届けてしまいたいけど……会長は今、生徒会室に居ない。
確実に受け取ってもらうには、会長が生徒会室に居る間を狙って、ドアノブに掛けて来たかった。
うーん……と暫く考えた俺は、仕方無く遠回りをして生徒会室へ向かう。



「まぁ、そろそろ居るだろう。」



何の確証も無いまま、数十分の時を潰し、俺は生徒会室へ来ていた。
無事に会長の手へ渡って下さい……
そんな事を祈りつつ、ドアノブへ袋を引っ掛けようとしたその時……中から会長が姿を現した。



「っ、お前……」

「あ、えと、その、こんにちは。」



ははは……と乾いた笑みを浮かべ、何故か俺は、会長に挨拶をした。
鋭い目をカッと見開き驚いてた会長は、俺が持つ袋を確認すると、辺り
をキョロキョロ見回し、息を吐く。



「……それ、お前だったのか。」

「ああ……まぁ、はい。」



肯定すれば、会長は再び辺りを見回し、戸惑いがちに言葉を紡いだ。



「ケーキ、まあまあ悪くない。」

「あっ、ありがとうございます。」

「けど、その、なんだ、俺様は多忙な人間だから疲れがたまるんだ。」

「はぁ、それはご苦労様です。」

「つまりっ、糖分が欲しくなる!」

「そうなんですか?」

「だ、だから、明日は¨糖¨を増やして持って来い!!」



真っ赤になった会長の顔を見て、俺はピンっと来た。
そうか!!会長は甘味好きを隠したいんだ!!



「はは、了解です。多忙な会長の為、¨糖分¨割増で焼いて来ます!」

「ああ、俺様は疲れてるだけだ!!書類の整理が山程残ってる!!」



ふんっと目を逸らす会長の後ろには、本当に書類の山があった。
そう言えば最近、生徒会は職務放棄してたっけ…………今は会長が1人で仕事してんだな。



「それじゃあ俺、そろそろ寮に戻ります。会長の邪魔しちゃ悪いし……これ、今日の分です。生徒会の仕事、頑張って。」



はい、と菓子の入った袋を手渡し、俺はその場を去る事にした。



「あ、おい、待て!!」

「っ…………まだ、何か?」



クイッと制服を掴まれ、後ろを振り返る。
そこには、先程より真っ赤になった会長の姿が…………



「これ……このケーキがあるから、俺様は仕事を頑張れるし、頑張ろうと思えた…………ありがとう。」

「っ…………………………はい!」



予期せぬ会長の言葉に、心臓はドクンと跳ね、体温はみるみる上昇。
格好良くて俺様、けど本当は甘味好きな照れ屋さん……そんなのって、可愛くてズルいじゃないか!!



以来、俺は会長の為に大量の菓子を焼き、傍らで仕事を手伝うのが日課になった。



「あめぇ……けど、うめぇ。」



幸せそうにハニカむ会長。
明日もまた、あなたの笑顔が見たいから、とびきり甘い菓子を焼こう。



◎END



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